三原城、隆景の夢 第5話:干拓の始まり
作者のかつをです。
第十章の第5話をお届けします。
今回は、この大事業の最も過酷な部分を担った、名もなき人夫たちの視点から物語を描きました。彼らの汗なくして、この城はありえませんでした。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
俺は、太助。備後の山奥の貧しい村で生まれた。
食うものもろくになく、毎日芋の蔓をかじって飢えをしのいでいた。
そんな俺の村にある日、お侍様がやってきてこう言った。
「三原で新しい城を作る。人夫を集めておる。行けば、腹いっぱい飯が食えるぞ」
俺は迷わず手を挙げた。
そうして俺は、三原の築城現場へとやってきたのだ。
そこは、俺のような男たちで溢れかえっていた。
何千、いや、何万という人夫たちが、泥だらけになって働いている。
俺たちの仕事は、ただ一つ。
海を、埋めること。
「えんや、こら!」「どっこい、しょ!」
掛け声と共に、もっこを担ぎ、山から切り出された土砂を来る日も来る日も海へと運び続けた。
仕事は過酷だった。
夏の炎天下では汗が滝のように流れ、冬の寒風は容赦なく体を凍えさせる。
だが、不思議と辛いとは思わなかった。
ここでは確かに、腹いっぱい飯が食えたからだ。
そして何よりも、俺の心には一つの誇りがあった。
俺たちが今やっているこの仕事が、新しい城を、新しい国を作っているのだと。
時折、小早川隆景様が自ら現場を視察に来られることがあった。
隆景様は決して馬の上から俺たちを見下ろすようなことはなさらなかった。
必ず馬から下り、俺たちと同じ泥の中に足を踏み入れ、一人一人に声をかけてくださるのだ。
「ご苦労。皆の働き、頼りにしておるぞ」
その優しい一言だけで、俺たちの疲れはどこかへ吹き飛んでしまう。
このお方のためなら、どんな辛い仕事でも耐えられる。
皆、そう思っていた。
だが、相手は大自然。
ある嵐の夜。
巨大な高潮が、俺たちが築いていた堤を一瞬にして飲み込み、すべてを押し流してしまったことがあった。
何ヶ月もかけて築き上げたものが、水の泡と消えた。
皆、呆然と立ち尽くした。
もう、駄目だ。
誰もがそう諦めかけた時。
隆景様がずぶ濡れになりながら、現場に現れた。
そして、自ら鍬を手に取り、泥の中に入っていかれたのだ。
「皆、何を lanceol-shita! わしに続け! もう一度、一からやり直すのじゃ!」
その姿を見て、俺たちは皆、泣きながら再び土を運び始めた。
このお方が諦めない限り、俺たちも諦めるわけにはいかない。
俺たちはただ無心に土を運び続けた。
海の上に道ができ、陸地が広がっていく。
俺たちの汗と涙の結晶が、確かに形になっていく。
その喜びだけが、俺たちの支えだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
家臣や領民と苦労を共にし、決して諦めない。隆景のその姿勢こそが、この前代未聞の難工事を成功に導いた、最大の要因だったのかもしれません。
さて、人々の努力の結晶。ついに、海の上に巨大な城がその姿を現します。
次回、「浮かび上がる城」。
三原城の威容が明らかになります。
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