三原城、隆景の夢 第4話:町人たちの期待
作者のかつをです。
第十章の第4話をお届けします。
今回は視点をがらりと変え、新しい城下町に夢を賭けた商人の一人称で物語を進めてみました。戦だけでなく、経済の視点から城創りを描いています。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
三原の海に城が築かれる。
その噂はあっという間に備後、安芸の国中を駆け巡った。
そして、その噂と共に新しい商いの匂いを嗅ぎつけた商人たちが、次々と三原の地に集まり始めた。
わたくしは清兵衛。尾道で代々、米問屋を営む商家の若旦那でございます。
わたくしもまたその噂を聞きつけ、三原の地にやってきた一人でございました。
当時の三原はまだ小さな漁村に過ぎませんでした。
だが、わたくしには見えました。
この寂れた浜辺がやがて、日の本屈指の港町へと生まれ変わる未来の姿が。
小早川隆景様はただ城を築くだけでなく、その周囲に広大な城下町を作る計画を立てておられたのです。
山城の麓に作られる窮屈な町ではない。
港に隣接し道は碁盤の目のように整然と区切られ、全国から人、物が集まる一大商業都市。
隆景様は我ら商人たちを城に呼び、自らその壮大な都市計画を説明してくださいました。
「――ここに大きな市場を作る。米、塩、魚、鉄、あらゆるものがここで取引されることになるだろう。そしてこの町から瀬戸内各地へ、さらには明国、南蛮へと船が出ていくことになる。この三原を日の本一の商いの町にしたい。皆の力を貸してはくれぬか」
その熱意に、わたくしたち商人は皆、心を打たれました。
このお方は我ら商人を、ただ銭を搾り取る対象としてではなく、共に国を創る仲間として見てくださっておる。
わたくしは迷うことなく決断しました。
尾道の店をたたみ、一族郎党すべてを引き連れてこの三原の地に移り住むことを。
わたくしの全財産を、この新しい町に賭けることを。
もちろん、それは大きな賭けでございました。
だが、わたくしには確信がありました。
この若き知将が描く夢は、必ず実現すると。
わたくしだけでなく多くの商人たちが、同じようにこの三原の地に未来を賭けたのです。
まだ何もない干潟の上に、新しい町の槌音が響き始めた。
それは新しい時代への、希望に満ちた産声のようでした。
わたくしたち町人の夢と野望を乗せた新しい国創りが、今まさに始まろうとしていたのでございます。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
軍事と経済は、まさに国創りの両輪です。隆景は、その両方を見据えてこの三原の都市計画を進めていきました。
さて、水軍、職人、そして商人と役者は揃いました。いよいよ、前代未聞の難工事が本格的に始まります。
次回、「干拓の始まり」。
海という大自然を相手にした、名もなき人夫たちの壮絶な戦いを描きます。
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