大場山城、備後の誇り 第6話:砕け散った名(終)
作者のかつをです。
第九章の最終話です。
誇りを守るために戦い、そして散っていった宮一族。その壮絶な最期を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
夜明けと共に、小早川軍の総攻撃が始まった。
それはこれまでの戦とは比べものにならない、凄まじい猛攻だった。
わたくし、宮景盛は天守の最上階から采配を振るった。
だが、多勢に無勢。
城門はあっけなく破られ、敵兵が城内へと雪崩を打ってなだれ込んできた。
わたくしの家臣たちは、最後の一人まで勇敢に戦った。
だが、一人、また一人と血の海に倒れていく。
やがて敵兵の鬨の声は、この本丸のすぐ下まで迫ってきた。
もはや、これまで。
わたくしは残った数名の近習たちと共に、広間に座した。
そして、静かに腹に短刀を突き立てた。
薄れゆく意識の中で、わたくしは故郷、備後の豊かな大地を見ていた。
わたくしは守れなかった。
だが、誇りだけは守り抜いた。
それで、よい。
◇
わたくしが死んだ後、老臣の治部は約束通り、わたくしの辞世の句を小早川隆景の元へと届けたという。
隆景は、その句を読むとしばし黙然としていたが、やがて一言、こう呟いたそうだ。
「……宮景盛は、まこと武士の鑑であった」
そして隆景は、生き残った宮家の者たちを手厚く保護し、その血筋が絶えぬよう計らったという。
敵将ながら、その誇り高い生き様に敬意を表したのやもしれぬ。
わたくしたち宮一族の名は、歴史の表舞台からは消えた。
だが、その誇りは砕け散ってはいなかったのだ。
◇
……現代、福山市。
大場山城跡には今、木々が生い茂り、訪れる人もまばらだ。
だが、その静寂の中に耳を澄ませば、聞こえてくるかもしれない。
巨大な時代のうねりに抗い、自らの信念を貫き通した誇り高き武士たちの、遠い日の鬨の声が。
そして、その潔い最期に敬意を払った、若き知将の静かな呟きが。
歴史は、勝者と敗者を分ける。
だが、人の誇りの輝きは、勝敗を超えて語り継がれていくものなのかもしれない。
(第九章:最後の抵抗 ~大場山城、備後の誇り~ 了)
第九章「最後の抵抗」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
毛利の勢力拡大の裏には、このように抵抗し、滅びていった数多くの国人領主たちがいました。彼らの物語もまた、広島の大切な歴史の一部です。
さて、備後国を完全に平定した毛利。いよいよ、その目は瀬戸内海へと向けられます。
次回から、新章が始まります。
第十章:城ではなく、国を創る ~三原城、隆景の夢~
今度の主役は、知将、小早川隆景。彼が海の上に城を築くという壮大な夢を実現させていく、国創りの物語です。
引き続き、この壮大な山城史探訪にお付き合いいただけると嬉しいです。
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