大場山城、備後の誇り 第4話:誇りのための戦
作者のかつをです。
第九章の第4話をお届けします。
ついに始まった、大場山城の最後の戦い。圧倒的な兵力差を誇りと地の利で覆そうとする、宮一族の奮戦を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
わたくし、宮景盛の覚悟を聞いた家臣たちは、誰一人として城を去ろうとはしなかった。
「殿! 我らも、お供つかまつりまする!」
「宮家の武士の誇り、今こそ見せてやりましょうぞ!」
あれほど割れていた城内の心は、わたくしの決断によって皮肉にも一つにまとまった。
わたくしは涙をこらえ、皆に深々と頭を下げた。
「……かたじけない」
日没と共に、小早川の陣に矢文を放った。
「――降伏はせぬ。武士として、一戦交えん」
翌朝、夜明けを告げる鳥の声と共に。
小早川軍の法螺貝が、谷間に響き渡った。
ついに戦の火蓋が切られたのだ。
「かかれーっ!」
麓から鬨の声が上がり、毛利の兵たちが蟻のように山の斜面を駆け上がってくる。
「放てーっ!」
わたくしの号令で、城壁から矢の雨が降り注ぐ。
我らの兵の数はわずか数百。
だが、士気は天を衝くほど高かった。
皆、死を覚悟している。
失うものは何もない。
大場山城は天然の要害。そう簡単には落ちない。
我らは地の利を活かし、奮戦した。
崖の上から大石を落とし、狭い通路に敵兵が密集したところを横から突く。
小早川軍は数では勝るが、攻めあぐねているようだった。
その日の戦は日没まで続き、我らは何とか城を守り抜いた。
城内は勝利の喜びに沸いた。
「やったぞ!」「毛利とて大したことはない!」
だが、わたくしの心は冷静だった。
これは本当の勝利ではない。
敵はまだ兵力のほんの一部しか出していない。
そして、我らの兵糧と矢は無限ではないのだ。
この戦が長くは続かぬことを、わたくしは誰よりも理解していた。
これは我らの誇りを守るための、最後の戦。
わたくしは傷ついた兵たちを労いながら、明日来るであろうさらに激しい戦に備えた。
たとえ明日、この身が滅びようとも。
我ら宮一族の誇りは、決して滅びはしない。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
絶望的な状況の中でも武士としての誇りを失わない。宮景盛のその潔い生き様は、敵である小早川隆景の心にも何かを感じさせたかもしれません。
さて、初日の猛攻を凌いだ大場山城。しかし、落城の時は刻一刻と迫ります。
次回、「落城前夜」。
景盛は最後の宴を開きます。
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