表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山城史探訪 ~広島の地に眠る物語~  作者: かつを
第2部:中国制覇編 ~激戦と謀略の城々~
71/96

大場山城、備後の誇り 第3話:降伏勧告

作者のかつをです。

第九章の第3話、お楽しみいただけましたでしょうか。

 

今回は、主人公、景盛が誇りと民の命の間で葛藤し、そしてついに一つの答えを出すまでを描きました。彼の悲壮な覚悟が伝われば幸いです。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

翌朝、小早川隆景から再び使者がやってきた。

 

わたくし、宮景盛が広間で対面すると、使者は一枚の書状を差し出した。

 

それは隆景直筆の、最後通告だった。

 

「――返答の猶予は本日、日没までといたす。もしそれまでに降伏の返答がなければ、明朝より総攻撃を開始する。その時、城内の者の命の保証はできぬものと心得よ」

 

あまりにも非情な言葉だった。

 

わたくしは拳を握りしめ、怒りに震えた。

 

だが同時に、隆景の将としての器の大きさを感じざるを得なかった。

 

彼は無駄な血を流したくないのだ。

 

だからこそ、こうして最後まで降伏の機会を与えている。

 

家臣たちを集め、最後の軍議を開いた。

 

「殿! もはやこれまでです! 降伏いたしましょう!」

 

「いや、まだだ! 我らにはこの大場山城がある! 一戦交えるべきだ!」

 

議論はまたしても平行線を辿るだけだった。

 

わたくしは皆を下がらせ、一人広間に残った。

 

そして、目を閉じた。

 

脳裏に浮かんでくるのは、この城下で暮らす民たちの顔だった。

 

春に田を植え、秋に稲を刈る。

 

祭りの日には笑い合い、ささやかな幸せを分かち合う。

 

彼らには何の罪もない。

 

わたくしの武士としての意地のために、彼らの平穏な暮らしを奪ってしまって良いものだろうか。

 

父上なら、どうされただろうか。

 

いや、父上はもういない。

 

決めるのは、このわたくしだ。

 

長い、長い苦悩の末。

 

わたくしは一つの答えを出した。

 

日が西の山に傾き始めた頃。

 

わたくしは再び家臣たちを呼び集めた。

 

皆、固唾をのんでわたくしの言葉を待っている。

 

わたくしはゆっくりと口を開いた。

 

「……皆、聞いてくれ。わたくしは決めた」

 

その声は自分でも驚くほど静かで、そして澄んでいた。

 

「――我ら宮一族は、毛利には降らぬ」

 

広間に衝撃が走った。

 

「この大場山城を枕に、討ち死にする。それがわたくしの覚悟じゃ」

 

わたくしは続ける。

 

「じゃが、皆に死を強要するつもりはない。降伏したい者は、今すぐこの城を去るがよい。わたくしは止めぬ」

 

それが、わたくしが下した最後の決断だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

自らは戦い死ぬ。だが、家臣には生きる道を与える。これは景盛の最後の優しさであり、武士としての美学だったのかもしれません。

 

さて、城主の覚悟を聞いた家臣たちは、どう動くのか。

 

次回、「誇りのための戦」。

大場山城の最後の戦いが始まります。

 

物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ