大場山城、備後の誇り 第3話:降伏勧告
作者のかつをです。
第九章の第3話、お楽しみいただけましたでしょうか。
今回は、主人公、景盛が誇りと民の命の間で葛藤し、そしてついに一つの答えを出すまでを描きました。彼の悲壮な覚悟が伝われば幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
翌朝、小早川隆景から再び使者がやってきた。
わたくし、宮景盛が広間で対面すると、使者は一枚の書状を差し出した。
それは隆景直筆の、最後通告だった。
「――返答の猶予は本日、日没までといたす。もしそれまでに降伏の返答がなければ、明朝より総攻撃を開始する。その時、城内の者の命の保証はできぬものと心得よ」
あまりにも非情な言葉だった。
わたくしは拳を握りしめ、怒りに震えた。
だが同時に、隆景の将としての器の大きさを感じざるを得なかった。
彼は無駄な血を流したくないのだ。
だからこそ、こうして最後まで降伏の機会を与えている。
家臣たちを集め、最後の軍議を開いた。
「殿! もはやこれまでです! 降伏いたしましょう!」
「いや、まだだ! 我らにはこの大場山城がある! 一戦交えるべきだ!」
議論はまたしても平行線を辿るだけだった。
わたくしは皆を下がらせ、一人広間に残った。
そして、目を閉じた。
脳裏に浮かんでくるのは、この城下で暮らす民たちの顔だった。
春に田を植え、秋に稲を刈る。
祭りの日には笑い合い、ささやかな幸せを分かち合う。
彼らには何の罪もない。
わたくしの武士としての意地のために、彼らの平穏な暮らしを奪ってしまって良いものだろうか。
父上なら、どうされただろうか。
いや、父上はもういない。
決めるのは、このわたくしだ。
長い、長い苦悩の末。
わたくしは一つの答えを出した。
日が西の山に傾き始めた頃。
わたくしは再び家臣たちを呼び集めた。
皆、固唾をのんでわたくしの言葉を待っている。
わたくしはゆっくりと口を開いた。
「……皆、聞いてくれ。わたくしは決めた」
その声は自分でも驚くほど静かで、そして澄んでいた。
「――我ら宮一族は、毛利には降らぬ」
広間に衝撃が走った。
「この大場山城を枕に、討ち死にする。それがわたくしの覚悟じゃ」
わたくしは続ける。
「じゃが、皆に死を強要するつもりはない。降伏したい者は、今すぐこの城を去るがよい。わたくしは止めぬ」
それが、わたくしが下した最後の決断だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
自らは戦い死ぬ。だが、家臣には生きる道を与える。これは景盛の最後の優しさであり、武士としての美学だったのかもしれません。
さて、城主の覚悟を聞いた家臣たちは、どう動くのか。
次回、「誇りのための戦」。
大場山城の最後の戦いが始まります。
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