桜尾城、厳島合戦秘話 第6話:陶への密告
作者のかつをです。
第八章の第6話をお届けします。
今回は、元就の壮大な謀略の全貌が明らかになります。主人公、元澄がその巨大な計画の中でいかに重要な役割を果たしたのかを描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
わたくし、桂元澄が毛利方の佐東銀山城を攻め落としたという報せは、すぐに陶晴賢の元へと届いた。
晴賢は大いに喜び、わたくしへの疑いを完全に解いたという。
桜尾城の親陶派の家臣たちも、手のひらを返したようにわたくしを称賛した。
「いやあ、殿! 見事なご決断にございました!」
わたくしは彼らの前で満足げな笑みを浮かべながら、腹の底では冷たい嘲笑を浮かべていた。
愚かな者どもよ。
すべては毛利元就様の筋書き通りだということも知らずに。
わたくしはもはや陶の重臣として、晴賢の厚い信頼を勝ち取っていた。
そして、その信頼を利用して、元就様の次なる策謀の手助けをすることになる。
数ヵ月後、元就様は厳島に宮尾城という小さな城を築かせた。
そして、わたくしは元就様の指示通り、晴賢に密書を送った。
「――毛利め、厳島に無謀な城を築きおった。兵の数も少なく、まともな守りもできぬ様子。今こそこれを叩き、毛利を滅ぼす好機にござる」
晴賢はわたくしの言葉を信じきっていた。
「うむ、元澄が言うのであれば間違いないだろう。全軍を厳島へ! 毛利の息の根を止めてくれるわ!」
晴賢はまんまと罠にかかった。
二万と号する大軍を率いて、狭い厳島へと渡っていったのだ。
すべては元就様の描いた筋書き通り。
わたくしはこの時初めて、元就様の壮大な謀略の全貌を理解した。
宮尾城は囮。
そして、わたくしは、その囮に敵を誘い込むためのもう一つの駒。
わたくしが友を裏切り、魂を売ってまで手に入れたこの信頼は、すべてこの瞬間のためにあったのだ。
わたくしは桜尾城の天守から、厳島へと向かう陶の大船団を見つめていた。
彼らが敗れることを知りながら。
わたくしの心はもはや、何も感じなくなっていた。
ただ、早くこのすべてが終わってくれればいい。
そう思うだけだった。
だが、わたくしはまだ知らなかった。
元就の本当の恐ろしさを。
そして、わたくしに与えられた最後の役目が、まだ残っているということを。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
厳島に敵をおびき寄せる。その最も重要な役割を元澄は果たしました。しかし、元就の策謀はまだ終わりません。
用済みとなった駒を、彼がどう扱うのか。
次回、「友の刃(終)」。
第八章、衝撃の最終話です。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。




