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山城史探訪 ~広島の地に眠る物語~  作者: かつを
第1部:謀神覚醒編 ~元就と安芸の国人たち~
6/15

若き知将、覚醒の刻 第6話:裏切りの決断

作者のかつをです。

第一章の第6話をお届けします。

 

追い詰められ、疑心暗鬼に陥った人間が、どのような決断を下すのか。今回は、蔵田直信の、悲しい決意の瞬間を描きました。物語は、いよいよ、最終局面へと突入します。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

その日の軍議は、これまでになく、緊迫していた。

 

城内の動揺を抑えるため、蔵田房信は、ついに、叔父の直信を、家臣たちの前で、詰問したのだ。もはや、彼の若さゆえの焦りは、隠しきれなくなっていた。

 

「叔父上。近頃の噂、まことでござるか。大内に、内通しているというのは。はっきりと、お答えくだされ! 家臣たちの動揺を鎮めるためにも!」

 

その言葉は、もはや尋問だった。直信は、顔を、真っ赤にした。屈辱に、肩が震えている。

 

「房信! このわしを、疑うか! この城のために、先代様のために、どれだけ、わしが力を尽くしてきたか、忘れたとは言わせんぞ!」

 

「ならば、なぜ、潔白を証明されぬ! 噂が嘘であるならば、なぜ、堂々としておられぬのです! 何か、やましいことでもあるのか!」

 

二人の怒声が、飛び交う。

 

他の家臣たちは、ただ、青い顔で、うつむいているだけだった。房信派と直信派で、家中の空気は、すでに、真っ二つに割れていた。もはや、どちらの味方をすればよいのか、誰にもわからない。城の守りは、外からではなく、内から崩れようとしていた。

 

その時、直信の心の中で、何かが、ぷつりと、音を立てて切れた。

 

もはや、これまでか。

 

このまま、ここにいても、いつか、この血気にはやる若造に、あらぬ疑いをかけられ、粛清されるだけだ。そうなれば、わしに従う者たちも、路頭に迷うことになる。

 

ならば――。わしが、この城を、守るしかない。この愚かな甥から、奪い取ってでも。

 

その夜。

 

直信は、密かに、飼っていた鷹の足に、小さな文を結びつけた。

 

大内への、返書だった。

 

文には、ただ、一言。

 

「――今宵、丑の刻。北のやぐらに、火を放つ」

 

鷹は、主の思いを乗せ、闇夜の中へと、羽ばたいていった。もう、戻れぬ。直信は、空を見上げ、固く、拳を握りしめた。

 

 

 

 

大内軍の陣。

 

毛利様の陣幕に、一羽の鷹が、舞い降りた。

 

元就様は、その文に目を通すと、静かに、頷いた。

 

「……魚は、かかったな」

 

彼は、すぐに、総大将の元へと、向かった。

 

「今宵、決戦にござる。全軍に、出陣の準備を」

 

その声は、氷のように、冷たかった。

 

俺たち足軽にも、すぐに出陣の準備が命じられた。陣中は、にわかに活気づき、武具の音が響き渡る。

 

腹の底から、武者震いが、こみ上げてくる。

 

ひと月以上も、俺たちを苦しめ続けた、あの難攻不落の城が、今夜、ついに、落ちる。

 

謀略によって。

 

血の繋がった、叔父の裏切りによって。

 

俺は、槍を握りしめながら、戦というものの、本当の恐ろしさを、改めて、噛みしめていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

一度、狂い始めた歯車は、もう、誰にも止められません。直信の決断は、彼自身と、鏡山城の運命を、決定づけてしまいました。

 

そして、ついに、約束の夜がやってきます。

 

次回、「落城の日」。

鏡山城の、最後の瞬間を、見届けてください。

 

物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。

ーーーーーーーーーーーーーー

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