吉田郡山城、3千の覚悟 第9話:逆襲の狼煙
作者のかつをです。
第六章の第9話、クライマックスの合戦シーンです。
初めて本格的な戦闘に参加した、主人公・弥助の混乱と、その中で芽生える強い意志を描きました。戦場の、生々しい空気を感じていただければと思います。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
援軍が到着してから、数日後。
ついに、毛利・大内連合軍による、総攻撃の火蓋が切られた。
「者ども、かかれ! 尼子を、一匹残らず、安芸の国から叩き出せ!」
元就様の号令一下、俺たちは、鬨の声を上げ、半年の間、閉じ込められていた城から、打って出た。
俺は、生まれて初めて、平地での、本当の合戦というものを、経験した。
それは、城の上から石を投げるのとは、訳が違う。
怒号、悲鳴、鉄と鉄がぶつかり合う、耳をつんざくような音。
血の匂い。肉の焼ける匂い。
右も、左も、敵と味方が入り乱れ、もみくちゃになっている。
俺は、ただ、夢中で、目の前に現れた敵兵の腹に、槍を突き出した。
ぐにゅり、とした、嫌な感触。
相手の、驚いたような顔。
俺は、人を、殺した。
吐き気が、こみ上げてくる。だが、感傷に浸っている暇はなかった。
「弥助、上だ!」
組頭の声に、はっと、顔を上げる。
敵兵が、刀を振りかぶっていた。
もう、駄目だ。
そう、思った瞬間。
横から現れた味方の騎馬武者が、その敵兵を、一刀のもとに、斬り捨てた。
助かった。
あれほど飢えに苦しみ、死にたくないと思っていたのに、いざ、戦場に出てみると、自分の命が、あまりにも、軽く感じられた。
だが、不思議と、恐怖はなかった。
半年もの間、俺たちを苦しめ続けた、憎い尼子。
そして、何より、この戦を生き延びて、故郷に帰りたい。母ちゃんに、会いたい。
その一心だけで、俺は、槍を握りしめ、再び、敵の群れへと、突っ込んでいった。
追う者と、追われる者。
立場は、完全に、逆転していた。
あれほど、巨大に見えた尼子軍は、混乱し、次々と、崩れていく。
俺は、叫んでいた。
雄叫びなのか、悲鳴なのか、自分でも、わからなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
毛利・大内連合軍の反撃により、尼子軍は総崩れとなり、多くの将兵を失いながら、出雲へと敗走していきました。ここに、百五十日以上に及んだ籠城戦は、毛利方の奇跡的な勝利で、幕を閉じたのです。
さて、長かった戦いが、ついに終わります。弥助は、無事に、故郷へ帰ることができるのでしょうか。
次回、「勝利の代償(終)」。
第六章、感動の最終話です。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。
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