吉田郡山城、3千の覚悟 第7話:冬の到来
作者のかつをです。
第六章の第7話です。
最も過酷な冬の到来。しかし、それは敵にとっても同じことでした。ほんのわずかな敵の変化が、絶望の中にいた兵士たちに新たな希望を与えます。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
季節は秋から冬へと移っていた。
郡山の木々の葉はすべて落ち、寒々しい風が吹き抜けていく。
俺たちは着の身着のまま徴兵されてきた。冬を越すための備えなど何もない。
飢えに、今度は寒さが加わった。
夜は身を寄せ合い、互いの体温で凍える体を温めるしかなかった。それでも、朝になると隣で眠っていた仲間が冷たくなっていることが何度もあった。
もう誰も何も喋らなかった。
喋る気力もない。
ただ、無表情に空を見上げているだけ。
そんなある日のことだった。
物見櫓の兵が、狂ったように鐘を打ち鳴らし始めた。
「て、敵襲か!?」
俺たちはよろよろと槍を手に取った。もうまともに戦える者などほとんどいない。これが最期の時かもしれなかった。
しかし、物見櫓から聞こえてきたのは敵襲を告げる声ではなかった。
「煙だ! 麓の尼子陣の、飯炊きの煙が少なくなっているぞ!」
その声に、俺たちは顔を見合わせた。
どういうことだ?
俺たちも飢えている。だが、城を包囲している尼子軍もまた、この山奥で冬を越しているのだ。
元就様の焦土作戦が、じわじわと効いてきている。
敵もまた、飢えと寒さに苦しんでいる。
その事実は俺たちの心に、ほんの少しだけ火を灯した。
苦しいのは俺たちだけではない。
もう少しだ。もう少しだけ耐えれば。
その夜、空から白いものが舞い始めた。
初雪だった。
それはすべての音を吸い込み、世界を白く染めていく静かで美しい雪だった。
俺は天を仰ぎ、掌で雪を受け止めた。
冷たい水の味がした。
この冬を越せば、春が来る。
俺はなぜか、そう強く信じることができた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
長期の遠征、特に冬場の陣は補給が非常に困難になります。尼子軍もまた、食料不足と士気の低下に深刻に悩まされていたと言われています。
そして、ついに戦況を覆す決定的な瞬間が訪れます。
次回、「陶隆房、来たる」。
待ちわびた援軍が、ついに姿を現します。
よろしければ、応援の評価をお願いいたします!




