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山城史探訪 ~広島の地に眠る物語~  作者: かつを
第2部:中国制覇編 ~激戦と謀略の城々~
37/95

吉田郡山城、3千の覚悟 第3話:城下の焦土作戦

作者のかつをです。

第六章の第3話、お楽しみいただけましたでしょうか。

 

今回は籠城戦のセオリーでありながら、兵士たちにとってはあまりにも過酷な「焦土作戦」を描きました。主人公・弥助の葛藤を感じていただければ幸いです。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

覚悟を決めた俺たちに下された最初の命令。

 

それは信じがたいものだった。

 

「城下の村々を、焼き払う」

 

尼子軍の兵糧となるものを、すべて焼き尽くすのだという。

 

俺たちが守るべきはずの故郷を、自らの手で。

 

「な、なんで……」「俺たちの家が……」

 

兵たちの間に動揺が走る。さっきまでの高揚した空気は、どこにもなかった。俺も頭が真っ白になった。麓の村には、知り合いの顔もたくさんある。

 

有無を言わさず、俺たちはいくつかの部隊に分けられ、麓へと下ろされた。もちろん住民たちはすでに城内へと避難している。だが、そこは俺たちが生まれ育った場所だった。

 

「火を放て! 一刻も早く! ぐずぐずするな!」

 

武士たちの怒声が飛ぶ。

 

俺は震える手で、松明たいまつを握りしめた。目の前には友人の権爺ごんじいが営んでいた、小さな鍛冶屋がある。何度も遊びに行き、壊れた鍬を直してもらった場所だ。

 

(すまねえ、権爺……)

 

心で詫びながら、俺は茅葺かやぶき屋根に松明を押し付けた。

 

パチパチと小さな音を立てて燃え始めた炎は、乾いた風にあおられ、あっという間に巨大な火柱となった。

 

次々と火の手が上がる。

 

俺たちが駆け回った野原が、魚を捕った小川が、初恋の娘に会った辻が、すべて赤い炎に飲み込まれていく。家畜の逃げ惑う悲鳴が聞こえる。

 

それは地獄のような光景だった。

 

城へと引き上げる途中、俺は振り返って燃え盛る故郷を見た。

 

空が黒い煙で覆われている。

 

元就様は俺たちに「故郷を守れ」と言った。

 

だが、守るべき故郷はもうない。

 

俺たちは帰る場所を失ったのだ。

 

もうこの城で戦い、勝つ以外に生きる道はない。

 

元就様の本当の狙いはこれだったのかもしれない。俺たちの最後の逃げ道を、断ち切ること。

 

そのあまりの非情さに、俺はただ唇を噛みしめることしかできなかった。

 

頬を熱いものが伝った。

 

それは炎の熱気のせいだけではなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

焦土作戦は敵の補給を断つと同時に、味方の兵士たちに「もう後がない」という覚悟を植え付ける心理的な効果もあったと言われています。元就の冷徹な判断力が光ります。

 

さて、すべての準備は整いました。いよいよ尼子軍による総攻撃が始まります。

 

次回、「包囲網の中の日常」。

弥助は初めて、本当の戦場の恐怖を味わいます。

 

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