高山城、追われた者の無念 第4話:光を失う
作者のかつをです。
第五章の第4話をお届けします。
今回は、主人公繁平にとってあまりにも過酷な運命が描かれます。権力だけでなく、生きる希望そのものまで奪われていく、彼の絶望を感じていただければ幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
徳寿丸を養子に迎えてから、数年が過ぎた。
わたくし、小早川繁平は、もはや城主としては名ばかりの存在となっていた。
政務の実権は完全に宿老たちと毛利から来た家臣たちに握られ、軍の指揮権も元服した徳寿丸――名を小早川隆景と改めた――に移っていた。
わたくしはただ、城の奥まった一室で書物を読むか、庭を眺めて一日を過ごすだけだった。
そんな心労がたたったのか。
生まれつき弱かったわたくしの目が、日に日に悪化していった。
最初は物がぼやけて見える程度だった。
だが、やがて庭の木々の緑も空の青も、その色彩を失っていった。
そしてある朝、目覚めた時。
わたくしの世界から、完全に光が消えていた。
「……見えぬ。何も、見えぬぞ!」
わたくしは叫んだ。
手探りで周りのものを確かめる。障子の感触。畳の匂い。
だが、見えるのはただどこまでも続く暗闇だけ。
京から名医を呼んで診てもらったが、首を横に振るだけだった。
わたくしは、盲目となったのだ。
その報せはすぐに、毛利元就の耳にも入った。
そして、それを待っていたかのように、宿老たちがわたくしの部屋へやってきた。
その声色にはわずかな同情と、そして隠しきれない安堵の響きがあった。
「殿。……まことにおいたわしいこと。つきましては我ら家臣一同、評議の上決めました。殿にはこれより家督を隆景様にお譲りいただき、ご隠居、そしてご出家いただきたく存じまする」
それは、あまりにも残酷な宣告だった。
目が見えなくなった城主など、もはや不要だ、と。
わたくしはまだ、二十歳を過ぎたばかりだというのに。
わたくしは、すべてを失った。
家臣も、城も、そして光さえも。
わたくしが、何か悪いことをしたというのか。
ただ、この小早川家に生まれたという、それだけの罪で、なぜここまで苦しまねばならぬのか。
わたくしは暗闇の中で、声を殺して泣いた。
涙はとめどなく流れたが、その涙さえも、わたくし自身には見ることができなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
繁平の失明が本当に病だけが原因だったのか。あるいは、毛利による毒殺説も囁かれています。真実は闇の中ですが、いずれにせよ、この出来事が彼の運命を決定づけてしまいました。
さて、すべてを失い、城を追われることになった繁平。
次回、「城を去る日」。
彼と若き隆景との、最後の対話が描かれます。
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