表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山城史探訪 ~広島の地に眠る物語~  作者: かつを
第1部:謀神覚醒編 ~元就と安芸の国人たち~
31/85

高山城、追われた者の無念 第3話:見えぬ圧力

作者のかつをです。

第五章の第3話、お楽しみいただけましたでしょうか。

 

今回は、養子、徳寿丸(後の小早川隆景)を迎えた後の繁平の苦悩を描きました。城主でありながら実権を奪われていく、彼の孤独と焦りを感じていただければ幸いです。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

毛利元就の三男、徳寿丸を養子として迎え入れてから。

 

わたくし、小早川繁平の城主としての立場は、日に日に弱まっていった。

 

徳寿丸はまだ十一歳の少年だったが、その聡明さは誰の目にも明らかだった。

 

父、元就によく似て物静かだが、物事の本質を見抜く鋭い眼差しをしていた。

 

家臣たちはもはや、わたくしよりもこの若き養子の方に期待を寄せているようだった。

 

軍議の席でもわたくしの意見は無いがしろにされ、宿老たちは何かと徳寿丸の顔色をうかがうようになった。

 

「徳寿丸様は、どうお考えになられますかな」

 

まるでわたくしが飾り物で、彼こそが本当の城主であるかのように。

 

そして、その徳寿丸の後ろには常に、父、元就の巨大な影がちらついていた。

 

毛利家からは傅役として多くの家臣が送り込まれ、高山城の隅々にまで目を光らせている。

 

わたくしは自らの城にいながら、まるで牢獄にいるような息苦しさを感じていた。

 

そんなある日のこと。

 

わたくしが一人、庭を眺めていると、徳寿丸が静かにやってきた。

 

「……父上」

 

その呼び方に、わたくしは胸が締め付けられるような思いだった。

 

「……何か、用かな」

 

わたくしが冷たく問うと、徳寿丸は悲しそうな顔をした。

 

「父上は、わたくしがお嫌いですか」

 

その子供らしい純粋な問いに、わたくしは言葉を失った。

 

この子は何も悪くない。

 

この子もまた父、元就の巨大な野望の駒として、ここに送られてきた犠牲者なのかもしれない。

 

そう、頭ではわかっている。

 

だが、わたくしの心は、どうしてもこの家を乗っ取るために来た少年を、受け入れることができなかった。

 

わたくしは何も答えずに、その場を立ち去った。

 

徳寿丸が寂しそうにうつむいていた、その小さな後ろ姿が、なぜかいつまでも脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

わたくしは、どうすればよかったのだろうか。

 

この見えぬ圧力の中で、ただすべてを諦め、受け入れるしか道はなかったのだろうか。

 

わたくしの心の葛藤は、日増しに深まっていった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

若き日の小早川隆景もまた、父、元就の大きな期待を背負い、慣れない土地で苦労したのかもしれません。繁平と隆景。二人の若者の複雑な関係性が、この物語の一つの軸となります。

 

さて、心労がたたったのか、繁平の持病が悪化していきます。

 

次回、「光を失う」。

彼の運命は、さらに過酷なものとなっていきます。

 

物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ