高山城、追われた者の無念 第3話:見えぬ圧力
作者のかつをです。
第五章の第3話、お楽しみいただけましたでしょうか。
今回は、養子、徳寿丸(後の小早川隆景)を迎えた後の繁平の苦悩を描きました。城主でありながら実権を奪われていく、彼の孤独と焦りを感じていただければ幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
毛利元就の三男、徳寿丸を養子として迎え入れてから。
わたくし、小早川繁平の城主としての立場は、日に日に弱まっていった。
徳寿丸はまだ十一歳の少年だったが、その聡明さは誰の目にも明らかだった。
父、元就によく似て物静かだが、物事の本質を見抜く鋭い眼差しをしていた。
家臣たちはもはや、わたくしよりもこの若き養子の方に期待を寄せているようだった。
軍議の席でもわたくしの意見は無いがしろにされ、宿老たちは何かと徳寿丸の顔色をうかがうようになった。
「徳寿丸様は、どうお考えになられますかな」
まるでわたくしが飾り物で、彼こそが本当の城主であるかのように。
そして、その徳寿丸の後ろには常に、父、元就の巨大な影がちらついていた。
毛利家からは傅役として多くの家臣が送り込まれ、高山城の隅々にまで目を光らせている。
わたくしは自らの城にいながら、まるで牢獄にいるような息苦しさを感じていた。
そんなある日のこと。
わたくしが一人、庭を眺めていると、徳寿丸が静かにやってきた。
「……父上」
その呼び方に、わたくしは胸が締め付けられるような思いだった。
「……何か、用かな」
わたくしが冷たく問うと、徳寿丸は悲しそうな顔をした。
「父上は、わたくしがお嫌いですか」
その子供らしい純粋な問いに、わたくしは言葉を失った。
この子は何も悪くない。
この子もまた父、元就の巨大な野望の駒として、ここに送られてきた犠牲者なのかもしれない。
そう、頭ではわかっている。
だが、わたくしの心は、どうしてもこの家を乗っ取るために来た少年を、受け入れることができなかった。
わたくしは何も答えずに、その場を立ち去った。
徳寿丸が寂しそうにうつむいていた、その小さな後ろ姿が、なぜかいつまでも脳裏に焼き付いて離れなかった。
わたくしは、どうすればよかったのだろうか。
この見えぬ圧力の中で、ただすべてを諦め、受け入れるしか道はなかったのだろうか。
わたくしの心の葛藤は、日増しに深まっていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
若き日の小早川隆景もまた、父、元就の大きな期待を背負い、慣れない土地で苦労したのかもしれません。繁平と隆景。二人の若者の複雑な関係性が、この物語の一つの軸となります。
さて、心労がたたったのか、繁平の持病が悪化していきます。
次回、「光を失う」。
彼の運命は、さらに過酷なものとなっていきます。
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