表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山城史探訪 ~広島の地に眠る物語~  作者: かつを
第1部:謀神覚醒編 ~元就と安芸の国人たち~
30/92

高山城、追われた者の無念 第2話:毛利からの養子

作者のかつをです。

第五章の第2話をお届けします。

 

今回は、毛利元就の巧妙な乗っ取り計画が明らかになります。外堀を埋められ、逃げ道を断たれていく若き当主、繁平の絶望を描きました。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

 

「――小早川家の末永き繁栄を願い、我が三男、徳寿丸とくじゅまるを貴殿の養子として迎え入れてはいただけぬだろうか」

 

わたくしは一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

 

養子。

 

まだ十六のわたくしに、養子を迎えろと言うのか。

 

しかもそれは、事実上、毛利に家を明け渡せということに他ならない。

 

「……馬鹿な。わたくしはまだ若く、世継ぎをもうけることもこれから。なぜ今、養子を迎えねばならぬのですか」

 

わたくしが声を震わせながら問うと、使者は待ってましたとばかりに答えた。

 

「殿は近頃、目が悪化しておられるとか。万が一、家督を継ぐお子に恵まれなかった場合、小早川家はどうなりまするか。毛利の血を入れることこそが家を守る最善の道と、我が主、元就は考えておられるのです」

 

確かに、わたくしは生まれつき目があまり良くなかった。

 

だが、それは家督相続に支障をきたすほどのものではない。

 

これは口実だ。

 

わたくしがまだ若く、病弱であることにつけこんだ、あまりにも横暴な内政干渉。

 

「お断りいたします! この話は聞かなかったことに!」

 

わたくしが叫ぶと、広間の空気が凍り付いた。

 

その時だった。

 

それまで黙って控えていた、我が家の宿老たちが、おもむろに口を開いたのは。

 

「……殿。ここは毛利殿のお言葉に甘えるべきかと存じまする」

 

「な……何を言うか! そなたらまで毛利に寝返ったのか!」

 

「滅相もございません! ですが、今の我らだけで大内、尼子の両勢力と渡り合っていくのは困難。毛利家と手を結ぶことこそが、我らが生き残る唯一の道にございます!」

 

宿老たちの必死の説得。

 

わたくしは愕然とした。

 

いつの間に。

 

いつの間に、毛利元就は我が家の重臣たちをここまで手懐けていたのだ。

 

わたくしはすでに、この城の中で孤立していた。

 

味方はどこにもいなかった。

 

もはやわたくしに、否、と言う選択肢は残されていなかった。

 

わたくしは唇を血が滲むほど噛みしめ、うなだれることしかできなかった。

 

わたくしの人生の歯車が、この瞬間、大きく狂い始めたのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

こうして、毛利元就の三男、徳寿丸は後の小早川隆景として、名門・小早川家を継ぐことになります。しかし、それは繁平の犠牲の上に成り立ったものでした。

 

さて、家臣にまで裏切られ、養子を受け入れざるを得なくなった繁平。

 

次回、「見えぬ圧力」。

彼の城主としての権威は、少しずつ奪われていきます。

 

よろしければ、応援の評価をお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ