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山城史探訪 ~広島の地に眠る物語~  作者: かつを
第1部:謀神覚醒編 ~元就と安芸の国人たち~
3/15

若き知将、覚醒の刻 第3話:狙いは叔父

作者のかつをです。

第一章の第3話、お楽しみいただけましたでしょうか。

 

今回は、毛利元就の謀略の、具体的なターゲットが明らかになります。人の心の隙間を突く、彼の冷徹な分析眼を描きました。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

軍議の後、俺たち足軽の間でも、毛利様の噂が、まことしやかに囁かれるようになった。

 

「あの若殿、城を、内から崩すと言ったそうだ。まるで軍師様みてえだな」

「馬鹿言え。あの城の守りは固いぞ。侍同士の結束も固いと聞く。そんなことができるもんか。口先だけの若造よ」

 

誰もが、半信半疑だった。俺も、正直なところ、若さゆえの机上の空論ではないかと思っていた。

 

数日後、俺は、組頭に呼び出され、毛利様の陣幕を警護するよう、特別に命じられた。どうやら、俺が口の堅い男だと、誰かが推薦してくれたらしい。そこで俺は、元就様の策の、恐るべき一端を、垣間見ることになる。

 

陣幕の中には、商人や山伏のなりをした、数人の密偵らしき男たちが集められていた。俺は槍を手に、入り口に立ちながら、中の会話に耳をそばだてる。

 

「鏡山城の城主は、蔵田房信。若いが、人望厚く、家臣の信頼も得ている。彼を直接、揺さぶるのは、難しい」

 

元就様は、床に広げた城の見取り図を指しながら、静かに語る。その声は、まるで医者が病の根源を探るように、冷静沈着だった。

 

「じゃが、人には、必ず、隙がある。嫉妬、野心……そういった、心の隙間がな。そして、その隙は、近しい間柄であればあるほど、深く、暗いものになる」

 

彼が、とん、と指差した場所。

 

そこには、「蔵田直信なおのぶ」という名が記されていた。

 

「この男は、城主・房信の叔父。先代の頃から城代家老として仕え、実力も人望もある。じゃが、家督は、甥の房信が継いだ。面白くないはずじゃ」

 

密偵の一人が、口を開く。「はっ。城下で聞き込みましたところ、直信様は、酒の席で『今の若殿はまだ青い。先代様であれば、このような戦にはならなかったものを』と、度々、不満を漏らしておられるとか。先代への忠義が深い分、今の若い当主には思うところがあるようで」

 

元就様の口の端が、わずかに、吊り上がった。それは、獲物を見つけた狩人のような、鋭い笑みだった。

 

「それだ。我らが狙うは、堅固な城壁ではない。攻め落とすのは、城主の首でもない。この、満たされぬ野心を持つ、叔父御の心よ。忠義と野心、その間で揺れ動く心こそ、最も脆い」

 

その瞬間、俺は、背筋に、ぞくりと、冷たいものが走るのを感じた。

 

この人は、ただの武将ではない。戦場で槍を振るうのとは全く違う戦をしようとしている。人の心の、最も暗く、醜い部分を、正確に見抜き、それを、武器として使うことができる人だ。まるで、人の心を、手のひらの上で転がしているかのようだった。

 

元就様は、密偵たちに、いくつかの指示を与えた。

 

俺には、その内容までは聞き取れなかったが、これから、何か、とんでもなく、そして、人の道から外れたことが始まろうとしている。

 

その予感だけが、肌を粟立たせた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

どんなに堅固な組織でも、内部の人間関係の綻びから、崩れることがあります。元就は、その本質を、若くして見抜いていました。

 

さて、ターゲットを定めた元就。彼が放つ、最初の「矢」とは。

 

次回、「偽りの密書」。

一本の書状が、城内の人間関係を、静かに蝕み始めます。

 

物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!

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