高山城、追われた者の無念 第1話:名門の嫡男
作者のかつをです。
本日より、第五章「名門乗っ取りの影で ~高山城、追われた者の無念~」の連載を開始します。
今回は毛利家の栄光の影に隠された悲劇に焦点を当てます。主人公は毛利に家を乗っ取られることになる、名門の若き当主、小早川繁平です。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
広島県三原市。沼田川を見下ろす丘陵地帯に、かつて高山城という壮麗な山城があった。安芸国の名門、小早川氏の本拠地として長くこの地を治めてきた城である。
歴史は常に勝者の視点から語られる。だが、その輝かしい栄光の影には常に、敗れ追いやられ、歴史の闇に消えていった者たちの声なき声が眠っている。
これは、巨大な力の奔流に自らの運命を翻弄された、一人の若き城主の悲劇の物語である。
◇
天文十三年(一五四四年)、夏。
わたくし、小早川繁平は、高山城の本丸から自らの領地を見下ろしていた。
眼下には豊かな田園が広がり、瀬戸内の穏やかな海がきらきらと輝いている。
わたくしは、この美しい土地を治める沼田小早川家の若き当主。
父が早くに亡くなったため、わたくしはまだ元服したばかりの十六歳で、この名門の家督を継いだ。
若輩ではあるが、家臣たちは皆わたくしに忠誠を誓ってくれている。
わたくしは、この父祖伝来の地を立派に守り抜いてみせる。そう心に誓っていた。
だが、時代の大きなうねりは、この穏やかな沼田の地にも容赦なく押し寄せてきていた。
西の大大名、大内家と、東から勢力を伸ばす尼子家。
そして、その間で急速に力をつけてきた安芸の毛利元就。
我ら小早川家も、否応なくその勢力争いの渦中に巻き込まれていた。
「殿、毛利からの使者が参っております」
側近の田坂義詮が告げに来た。
またか。
わたくしは心の中でため息をついた。
近頃、毛利からの干渉は日に日に強まっていた。
わたくしがまだ若く経験が浅いことにつけこみ、家中の長老たちを巧みに取り込み、小早川家の内政にまで口を出してくる。
今日の使者は、一体どんな無理難題を吹っかけてくるのだろうか。
わたくしは憂鬱な気持ちで、広間へと向かった。
その時のわたくしは、まだ想像だにしていなかった。
この毛利からの使者がもたらす提案が、わたくしの人生のすべてを根底から覆す非情なものであるということを。
そして、わたくしが愛したこの高山城を追われる日が、すぐそこまで迫っているということを。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第五章、第一話いかがでしたでしょうか。
まだ若く純粋な繁平。しかし、彼の知らないところで、すでに彼の運命を左右する恐るべき計画が進行していました。
さて、毛利からの使者がもたらした衝撃の提案とは、一体何だったのでしょうか。
次回、「毛利からの養子」。
繁平は、逃れることのできない巨大な圧力に直面します。
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