相方城、猛将の誕生 第5話:兵糧攻め
作者のかつをです。
第四章の第5話をお届けします。
大きな失敗を経て、若き元春が将として一つ成長する重要な回です。父への反発と尊敬。その複雑な思いの中で、彼が自らの戦い方を見つけていきます。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
最初の総攻撃は、大失敗に終わった。
俺、吉川元春は、自らの未熟さ、浅はかさで多くの兵を死なせてしまった。
その夜、俺は陣幕の中で一人膝を抱えていた。
耳を塞いでも、昼間の味方の兵たちの断末魔の叫びが聞こえてくるようだった。
「……わしのせいで」
悔しさと申し訳なさで、涙がこぼれた。
父が言っていた、「将の役目」の意味が今、痛いほどわかる。
ただ先陣を切って敵を斬り伏せるだけが、将ではないのだ。
そんな俺の元に、傅役の市正が静かに入ってきた。
「若。お辛いでしょうが、下を向いてはなりませぬ。兵たちが、見ておりますぞ」
その優しい言葉に、俺はかえって声を上げて泣いてしまった。
「市正……わしはどうすれば良い。わしには、将の器などなかったのやもしれぬ」
市正は黙って、俺の背中をさすってくれた。
そして俺が少し落ち着いた頃を見計らって、静かに言った。
「若。御父君、元就様であればこのような時、どうなされるでしょうな」
父上なら。
そうだ。
父上なら、決して無謀な力攻めなど選ばない。
たとえ時間がかかろうとも、味方の血が最も流れぬ道を、選ぶはずだ。
俺は、はっと顔を上げた。
「……わかったぞ、市正」
翌朝、俺は再び軍議を開いた。
集まった諸将を前に、俺は深々と頭を下げた。
「昨日の戦の責は、すべてこのわしにある。皆に済まぬことをした」
そして、俺は新たな命令を下した。
「――これより、力攻めは一切行わぬ。この相方城を完全に包囲し、兵糧攻めに切り替える」
その命令に、諸将は驚いたようだった。
だが、誰も異を唱える者はいなかった。
昨日までの猪武者ぶりは鳴りを潜め、冷静に采配を振るう俺の姿に、何かを感じ取ってくれたのかもしれない。
俺は父とは違う。
父のような謀略の才はない。
だが、父から学ぶことはできる。
戦に勝つこと。そして、味方を守ること。
そのために今の俺にできる最善の策は、これしかない。
俺は静かに、時が満ちるのを待つことにした。
たとえ、それが俺の性に合わぬ、じれったい戦い方であったとしても。
これが俺が本当の意味で、総大将として生まれ変わるための試練なのだと、信じて。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
失敗から学び、成長する。それは戦国の武将たちも、現代の我々も同じなのかもしれません。この苦い経験が、後の猛将・吉川元春の礎を築いていくことになります。
さて、兵糧攻めに切り替えた元春。しかし、父、元就の非情な命令が彼の心を重く蝕みます。
次回、「最後の総攻撃」。
ついに落城の時。元春は、鬼になれるのでしょうか。
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