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山城史探訪 ~広島の地に眠る物語~  作者: かつを
第1部:謀神覚醒編 ~元就と安芸の国人たち~
26/99

相方城、猛将の誕生 第5話:兵糧攻め

作者のかつをです。

第四章の第5話をお届けします。

 

大きな失敗を経て、若き元春が将として一つ成長する重要な回です。父への反発と尊敬。その複雑な思いの中で、彼が自らの戦い方を見つけていきます。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

最初の総攻撃は、大失敗に終わった。

 

俺、吉川元春は、自らの未熟さ、浅はかさで多くの兵を死なせてしまった。

 

その夜、俺は陣幕の中で一人膝を抱えていた。

 

耳を塞いでも、昼間の味方の兵たちの断末魔の叫びが聞こえてくるようだった。

 

「……わしのせいで」

 

悔しさと申し訳なさで、涙がこぼれた。

 

父が言っていた、「将の役目」の意味が今、痛いほどわかる。

 

ただ先陣を切って敵を斬り伏せるだけが、将ではないのだ。

 

そんな俺の元に、傅役の市正が静かに入ってきた。

 

「若。お辛いでしょうが、下を向いてはなりませぬ。兵たちが、見ておりますぞ」

 

その優しい言葉に、俺はかえって声を上げて泣いてしまった。

 

「市正……わしはどうすれば良い。わしには、将の器などなかったのやもしれぬ」

 

市正は黙って、俺の背中をさすってくれた。

 

そして俺が少し落ち着いた頃を見計らって、静かに言った。

 

「若。御父君、元就様であればこのような時、どうなされるでしょうな」

 

父上なら。

 

そうだ。

 

父上なら、決して無謀な力攻めなど選ばない。

 

たとえ時間がかかろうとも、味方の血が最も流れぬ道を、選ぶはずだ。

 

俺は、はっと顔を上げた。

 

「……わかったぞ、市正」

 

翌朝、俺は再び軍議を開いた。

 

集まった諸将を前に、俺は深々と頭を下げた。

 

「昨日の戦の責は、すべてこのわしにある。皆に済まぬことをした」

 

そして、俺は新たな命令を下した。

 

「――これより、力攻めは一切行わぬ。この相方城を完全に包囲し、兵糧攻めに切り替える」

 

その命令に、諸将は驚いたようだった。

 

だが、誰も異を唱える者はいなかった。

 

昨日までの猪武者ぶりは鳴りを潜め、冷静に采配を振るう俺の姿に、何かを感じ取ってくれたのかもしれない。

 

俺は父とは違う。

 

父のような謀略の才はない。

 

だが、父から学ぶことはできる。

 

戦に勝つこと。そして、味方を守ること。

 

そのために今の俺にできる最善の策は、これしかない。

 

俺は静かに、時が満ちるのを待つことにした。

 

たとえ、それが俺の性に合わぬ、じれったい戦い方であったとしても。

 

これが俺が本当の意味で、総大将として生まれ変わるための試練なのだと、信じて。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

失敗から学び、成長する。それは戦国の武将たちも、現代の我々も同じなのかもしれません。この苦い経験が、後の猛将・吉川元春の礎を築いていくことになります。

 

さて、兵糧攻めに切り替えた元春。しかし、父、元就の非情な命令が彼の心を重く蝕みます。

 

次回、「最後の総攻撃」。

ついに落城の時。元春は、鬼になれるのでしょうか。

 

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