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山城史探訪 ~広島の地に眠る物語~  作者: かつを
第1部:謀神覚醒編 ~元就と安芸の国人たち~
22/92

相方城、猛将の誕生 第1話:若き獅子

作者のかつをです。

 

本日より、第四章「鬼吉川、初陣の城 ~相方城、猛将の誕生~」の連載を開始します。

 

舞台は、再び戦国時代。瀬野に実在した山城で繰り広げられた、籠城戦の物語です。

 

名もなき一人の足軽の視点から、戦の現実と、故郷への想いを描いていきます。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

広島県三次市。可愛川えのかわ馬洗川ばせんがわが合流するこの地は、古くから交通の要衝であった。その川岸を見下ろす丘の上に、かつて相方城あいかたじょうという堅固な城が存在した。

 

この城を巡る戦いは、一人の若者の名を天下に知らしめるきっかけとなる。父とは違う、猛々しき武勇。その若者の名は、吉川元春きっかわもとはる

 

これは、後に「鬼吉川」と恐れられる猛将が、初めて戦の恐ろしさと己の宿命を知る、産声の物語である。

 

 

 

 

天文十六年(一五四七年)、春。

 

俺、吉川元春は父、毛利元就の前に呼び出されていた。

 

「元春、お前に初陣を命じる」

 

父の言葉はいつもながら、簡潔で、そして重かった。

 

俺はまだ十七歳。元服してから日は浅いが、この日をどれほど待ち望んだことか。

 

父・元就は「謀神」とまで呼ばれる知略の将。兄の隆元は父の跡を継ぎ、毛利家をまとめる器量を持つ。そして弟の隆景は、父に似て知恵が回る。

 

では、俺は。

 

俺にあるのは、この有り余るほどの力と武勇だけだ。

 

幼い頃から誰よりも槍を振るい、馬を駆った。書物を読むより体を動かす方が性に合っていた。

 

いつかこの力で、父の、毛利家の役に立ちたい。兄上や弟にはできぬ、武威をもって家を守りたい。

 

その一心だった。

 

「ははっ! 謹んでお受けいたしまする!」

 

俺は床に額をこすりつけんばかりに、頭を下げた。

 

父はそんな俺を静かに見つめていた。

 

此度こたびの標的は、備後びんごの国人、江田えだ氏が籠もる相方城。江田は尼子に通じ、我らの背後を脅かしておる。これを叩く」

 

「兵の数は」

 

「お前に千五百を預ける。わしは出ぬ。此度の戦、総大将はお主じゃ、元春」

 

その言葉に、俺は全身の血が沸騰するのを感じた。

 

初陣にして、総大将。

 

父上が俺の力を認めてくださったのだ。

 

「元春」

 

父の静かな声が、俺の昂ぶる心を制した。

 

「戦は、血気にはやるだけでは勝てぬ。将の役目はただ敵を斬ることではない。味方の兵を一人でも多く生きて故郷に帰すことにある。そのことを、ゆめ忘れるな」

 

「……肝に銘じまする」

 

父の心配そうな眼差しが、少しだけ気になった。

 

だが、俺の心はすでに初陣への期待と興奮で満ち溢れていた。

 

俺の力を天下に示す時が来たのだ。

 

鬼神となりて、敵を喰らい尽くしてくれるわ。

 

俺はまだ知らなかった。

 

戦というものが、ただ勇ましいだけのものではないということを。

 

そしてこの初陣が、俺の心に生涯消えることのない、深い傷跡を残すことになるということを。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第四章、第一話いかがでしたでしょうか。

 

知略の父と温厚な兄、聡明な弟。その中で自らの武勇に存在価値を見出そうとする若き元春。彼の焦りと純粋な情熱が、この物語の軸となります。

 

さて、初陣にして総大将。意気揚々と出陣する元春。

 

次回、「父の命令」。

出陣の前夜、元就は元春にある非情な命令を下します。

 

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