亀寿山城、謀殺された城主 第6話:非情の論功
作者のかつをです。
第三章の第6話をお届けします。
忠臣の命さえも自らの謀略の道具として利用する。元就の非情さが極まる場面です。主人公・新九郎の悲しい覚悟と、隆通の苦悩を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
夜が明けた。
何も知らぬ我が主君、隆通様は晴れやかな顔で、元就様と共に銀山へと出立する支度をしていた。
その隆通様の前に、昨晩捕らえられた俺、新九郎が縄で縛られたまま引き出された。
「……新九郎! お主、これは、どういうことじゃ!」
隆通様は驚き、目を見開いた。
元就様は悲しそうな顔を作り、芝居がかった口調で言った。
「隆通殿……まことに申し訳ない。昨晩、この新九郎殿がわしの寝所を襲おうとしたのです。おそらくは、わしを亡き者にし、この友好関係を壊そうとした尼子の間者かと」
「な……なんだと……」
隆通様は絶句した。
「新九郎! まことか! お主、わしを裏切ったのか!」
俺は何も答えなかった。
ただ、黙って隆通様を見つめ返した。
違う。
違うのです、殿。
俺は、あなた様をお守りするために……。
だが、その声は口には出なかった。
俺がここで真実を話せば、殿は元就に斬られるだろう。
ならば、俺はこのまま裏切り者の汚名を着て、死ぬしかない。
それが殿をお守りする、唯一の道なのだ。
元就は、そんな俺の心中をすべて見透かしたように続けた。
「隆通殿。この男の処遇は、貴殿にお任せいたします。我が友である貴殿の家臣。わしが手を下すわけにはまいりませぬ」
残酷な言葉だった。
隆通様は顔を真っ青にして、震えていた。
信じていた側近の裏切り。
友である元就への申し訳なさ。
そして、自らの家臣を自らの手で処断せねばならぬという苦悩。
「……わかった」
長い沈黙の後。
隆通様はかすれた声で、呟いた。
「……新九郎は、わしが斬る」
その目は涙で潤んでいた。
それで、いいのです、殿。
俺は心の中でそっと微笑んだ。
どうか、ご無事で。
この鬼のような男に喰われぬよう、どうかお気をつけて。
隆通様がゆっくりと刀を抜いた。
その切っ先が、俺の喉元に向けられる。
俺は静かに目を閉じた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
自らの手を汚すことなく、相手に最も辛い決断をさせる。これもまた、元就の恐るべき謀略の一つです。
さて、親友の裏切りを目の当たりにし、その後始末までさせられてしまった隆通。彼の心は、完全に折れてしまいました。
次回、「城主の亡霊(終)」。
第三章、衝撃の最終話です。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。




