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山城史探訪 ~広島の地に眠る物語~  作者: かつを
第1部:謀神覚醒編 ~元就と安芸の国人たち~
2/16

若き知将、覚醒の刻 第2話:若き元就の献策

作者のかつをです。

第一章の第2話をお届けします。

 

ついに、若き日の毛利元就が登場します。まだ無名だった彼が、いかにして歴戦の武将たちが集まる軍議で、自らの策を主張したのか。その緊張の場面を描きました。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

その日の夕暮れ、総大将の陣幕で、重苦しい軍議が開かれていた。俺は、陣幕の外で警護の任に就いていたため、中の声を、断片的に聞くことができた。歴戦の武将たちが集まっているはずなのに、その声には疲労と焦りの色が滲んでいる。篝火の影が、陣幕に映る武将たちの姿を不気味に揺らしていた。

 

「もはや、兵糧攻めしかあるまい。冬まで待つことになるが、それが最も確実じゃ。これ以上の損害は、御免こうむる」

 

恰幅のいい、年配の武将の声だった。

 

「馬鹿を言え! それでは、尼子の援軍が来てしまうやもしれん!挟み撃ちにでもなれば、我らが危うい! それこそ、目も当てられんぞ!」

 

若い、血気盛んな武将が、それに噛みつく。

 

「では、どうすると言うのだ! これ以上、無駄に兵の血を流すことこそ、許されんぞ! お主の部隊こそ、先日の突撃で多くの者を死なせたではないか!」

 

「なんだと!」

 

意見はまとまらず、互いをなじり合うばかりで、ただ時間だけが過ぎていく。俺たち足軽にまで伝わってくる手詰まり感。これでは、戦に負けるのも時間の問題かもしれなかった。重苦しい沈黙が、陣幕を支配する。

 

その時だった。

 

凛とした、静かな声が響いたのは。

 

「――力攻めも、兵糧攻めも、いずれも下策かと存じまする」

 

陣幕の中が、ざわついた。一体、誰だ。この大武将たちが揃う席で、臆面もなく異を唱える者は。

 

「誰だ、無礼者は!」

 

声の主は、俺も顔を知っている男だった。安芸の国人領主の一人、吉田郡山城の、毛利元就様。まだ若く、鎧姿もどこか線が細い。この大軍の中では、取るに足らない存在のはずだった。周りの武将たちの視線が、侮りと好奇の色を浮かべて彼に注がれるのが、幕の影越しにもわかった。

 

総大将の、試すような声が響く。「毛利殿、では、おぬしに何か策があると申すか」

 

元就様は、少しの間を置いた後、静かに、しかし、はっきりと答えた。

 

「はっ。城というものは、石垣や堀だけで守られておるのではございません。人の心が、最大の守り。ならば、その心を、内から崩せば、城は、自ずと、落ちましょう」

 

「謀略を、使えと?」

 

「御意にござる。敵将も、その周りの者たちも、我らと同じ、人間。心には、必ず隙がございます。その隙を突くことこそ、兵の血を最も流さぬ、上策かと」

 

陣幕の中が、再び、沈黙に包まれた。

 

正々堂々とした戦を是とする侍大将たちの中には、鼻で笑う者もいた。謀略など、卑怯者のやることだ、と。

 

だが、手詰まりの状況の中、その若者の言葉には、何か、無視できない響きがあった。淀んだ空気の中に、一筋の風が吹き込んだような、不思議な感覚。

 

「……面白い。毛利殿、詳しく、聞かせてもらおうか」

 

総大将の、その一言。

 

俺は、まだ知る由もなかった。

 

この瞬間が、安芸国の、いや、中国地方すべての運命を、大きく動かすことになる、歴史の転換点であったということを。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

人の心を攻める「謀略」。戦国時代において、それは武勇と同じくらい、重要な戦術でした。元就の真価は、まさに、この謀略にありました。

 

さて、元就が狙いを定めた「人の心」とは、一体、誰の心だったのでしょうか。

 

次回、「狙いは叔父」。

元就の、恐ろしくも、的確な分析が始まります。

 

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