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山城史探訪 ~広島の地に眠る物語~  作者: かつを
第1部:謀神覚醒編 ~元就と安芸の国人たち~
19/91

亀寿山城、謀殺された城主 第5話:抜かれた刃

作者のかつをです。

第三章の第5話、物語のクライマックスです。

 

主人公・新九郎の悲壮な決意と、それを遥かに上回る元就の知謀。二人の対決の瞬間を、緊張感をもって描きました。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

天守の最上階。

 

月明かりが障子を通して、室内をぼんやりと照らしている。

 

俺、新九郎は息を殺し、天井のはりの上からその部屋を見下ろしていた。

 

部屋の中央には一つの布団が敷かれ、寝息がかすかに聞こえてくる。

 

間違いない。

 

あれが、毛利元就だ。

 

俺は懐の小刀をゆっくりと抜いた。

 

冷たい鉄の輝き。

 

心臓が早鐘のように鳴っている。

 

今だ。

 

今、飛び降り、一突きに。

 

俺が梁から身を乗り出した、その瞬間だった。

 

「――待っていたぞ、山内の忍びよ」

 

静かな声がした。

 

俺は息を呑んだ。

 

声は布団の中からではない。

 

部屋の隅の暗闇から聞こえてきた。

 

その暗闇の中から、ゆっくりと一つの人影が立ち上がった。

 

毛利元就、本人だった。

 

「な……なぜ……」

 

俺は声がかすれた。

 

元就は静かに笑った。

 

「お主のような忠義に厚い男が、一人くらいはおるだろうと思うておったよ。我が主君の危機を、黙って見過ごすことができぬ、愚直な男がな」

 

布団の中にいたのは偽物。身代わりだったのだ。

 

すべて、読まれていた。

 

俺の行動も覚悟も、すべてこの男の手のひらの上で踊らされていただけだったのだ。

 

俺は梁から飛び降りた。

 

「くっ……!」

 

もはや、これまで。

 

一太刀なりとも、浴びせてくれる。

 

俺が小刀を構え、元就に斬りかかろうとした、その時。

 

部屋の四方の障子が一斉に開かれた。

 

そこには、十数人もの毛利家の屈強な武者たちが、刀を抜き放ち俺を取り囲んでいた。

 

逃げ場はない。

 

俺は観念した。

 

「……見事、と言うしかありませぬな、元就殿」

 

俺は小刀を床に置いた。

 

元就は静かに俺の前に歩み寄ってきた。

 

「お主の名は?」

 

「……山内家家臣、新九郎にござる」

 

「そうか、新九郎。お主のような忠臣が、なぜ隆通殿のような愚かな主君に仕えておる。惜しいな」

 

その言葉に、俺の腹の底から怒りがこみ上げてきた。

 

「黙れ! 我が殿を侮辱するな! 殿はお主のような人の心を弄ぶ卑劣な男ではない! 誰よりも民を思い、人を信じる、優しきお方だ!」

 

俺は叫んでいた。

 

元就は俺の言葉を黙って聞いていた。

 

そして、一言だけぽつりと呟いた。

 

「……その優しさこそが、この乱世においては、最も命取りになるのじゃよ」

 

その寂しそうな横顔が、なぜか俺の目に焼き付いて離れなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

すべては元就の描いた筋書き通り。忠臣の行動さえも、彼は完璧に読み切っていました。

 

さて、捕らえられてしまった新九郎。そして、何も知らずに眠り続ける隆通。彼らの運命は。

 

次回、「非情の論功」。

元就は捕らえた新九郎を利用し、最後の罠を仕掛けます。

 

物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!

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