亀寿山城、謀殺された城主 第1話:友好の宴
作者のかつをです。
本日より、第三章「宴の後の惨劇 ~亀寿山城、謀殺された城主~」の連載を開始します。
今度の舞台は、華やかな「宴」。しかし、その水面下では恐るべき計画が静かに進行していました。主人公は、ターゲットとなる城主の側近・新九郎です。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
広島県庄原市。緑豊かなこの地に、かつて亀寿山城と呼ばれる山城があった。今は、城のあった山頂にわずかな石垣の跡が残るのみ。
この城の主は、戦国の世の倣いとして強大な勢力の狭間で巧みに立ち回り、生き残りを図ってきた。しかし、彼はまだ知らなかった。すぐ隣にいる、穏やかな笑みを浮かべた男こそが最も恐るべき存在であることを。
これは、友好の盃の裏で静かに進められた、非情なる暗殺計画の物語である。
◇
天文二年(一五三三年)、秋。
俺、新九郎は主君である山内隆通様の傍らに控えていた。俺は隆通様が幼い頃からの側仕えだ。
今宵、ここ亀寿山城では近隣の有力国人である吉田郡山城の城主、毛利元就様を招いての盛大な宴が催されていた。
「いやあ、元就殿。貴殿がこうして我らの城へお越しくださるとは、光栄の至り」
上機嫌で盃を勧める、我が主君、隆通様。
彼は天性の人懐っこさを持つ男だった。誰とでもすぐに打ち解け、敵を作らない。この乱世においては得難い美徳と言えるだろう。
「いえいえ、隆通殿。こちらこそお招きいただき、感謝いたします。この通り、わしは家臣もほとんど連れてはおらん。これも隆通殿への信頼の証にござる」
毛利元就様は柔和な笑みを浮かべ、盃を干した。
その物腰はどこまでも穏やかだった。日山城を謀略で落としたという、あの冷徹な男と同一人物とはとても思えない。
宴は和やかな雰囲気の中、進んでいった。
安芸国の未来について熱く語り合う、二人の城主。
その姿はまるで、昔からの親友同士のようだった。
俺もその光景を微笑ましく眺めていた。
毛利様のような力のあるお方とこうして友好を深めることができれば、我ら山内家の未来も安泰だ。隆通様の人の心を掴む力は、やはり大したものだ。
だがその時、俺は気づいていなかった。
穏やかな笑みを浮かべる元就様の、その瞳の奥。
一瞬だけきらりと光った、冷たい光に。
それは獲物の喉元に喰らいつこうとする、狼の光だということに。
宴は夜更けまで続いた。
俺たち家臣の誰もが、この友好関係が末永く続くものだと信じて疑わなかった。
この夜が我らの、そして我が主君、隆通様の運命を大きく狂わせる始まりの夜になるなど、夢にも思わずに。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第三章、第一話いかがでしたでしょうか。
友好を装い、相手の懐に深く入り込んでいく。これもまた、元就の得意とした手口でした。穏やかな笑みの裏に隠された彼の真の目的とは、一体何なのでしょうか。
次回、「盃に潜む毒」。
元就は甘い言葉で、隆通を巧みに誘い出します。
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