茶臼山城、武士の粋 第6話:文化の力(終)
作者のかつをです。
最終話です。
ここまで全20章、長い物語にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
最後は、「文化の力」というテーマで、過去と現在を繋ぎ、シリーズ全体の締めくくりとさせていただきました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
その後、茶臼山城の戦いがどうなったのか、歴史書には詳しくは記されていない。
一説には、武田軍は囲みを解いて去ったとも、あるいは後日、激戦の末に和睦したとも言われる。
だが、確かなことは一つ。
白井房胤という武将が、絶望的な包囲網の中で茶会を開き、敵をも感嘆させたという伝説が、数百年経った今もこの地に残っているということだ。
武力だけがすべてではない。
心、精神、そして文化。
それらは時に、剣よりも強く、鉄砲よりも遠くへ届く力を持つ。
房胤は、茶の湯を通じて、そのことを証明してみせたのだ。
◇
……現代、広島市安佐南区。
茶臼山城跡は、整備された公園となり、子供たちの遊び場となっている。
その一角に、ひっそりと茶室が建てられている。
週末になると、地元の茶道愛好家たちが集まり、茶会を開いている。
「結構なお点前で」
静寂の中、茶をすする音。
窓の外には、広島の街並みが広がっている。
かつて戦場だったこの場所で、今は平和に茶を楽しむ人々がいる。
参加者の一人、若い女性が、公園の案内板を読んで呟いた。
「昔、ここで戦の最中にお茶会をしたお殿様がいたんだって。すごい度胸だよね」
「ああ。でも、きっと度胸だけじゃないさ」
隣にいた老人が、目を細めて言った。
「どんな時でも、心に余裕を持つこと。美しさを忘れないこと。それが、本当に強いってことなんじゃないかな」
風が吹き抜ける。
木々のざわめきが、遠い昔の兵士たちの歓声のように聞こえる。
あるいは、房胤が点てた茶の湯気が、時を超えて今もこの山を包んでいるのかもしれない。
『山城史探訪』。
広島の山々に眠る、数多の物語。
名もなき人々が紡いできた、汗と涙と、そして誇りの記憶。
それらは決して消え去ったわけではない。
私たちが暮らすこの街の、土の下に、石垣の隙間に、そして私たちの心の中に、今も確かに生き続けているのだ。
(第二十章:包囲の中で茶会を ~茶臼山城、武士の粋~ 了)
(完)
『山城史探訪 ~広島の地に眠る物語~』、これにて完結となります。
皆様の応援のおかげで、ここまで書き続けることができました。
広島には、まだまだ語られていない歴史や伝説がたくさん眠っています。
この小説が、皆様の足元の歴史に目を向けるきっかけになれば、これ以上の喜びはありません。
もしよろしければ、作品の評価(☆☆☆☆☆)や感想をいただけると、作者は泣いて喜びます。
そして、いつかまた、別の歴史の旅でお会いしましょう。
本当に、ありがとうございました!




