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山城史探訪 ~広島の地に眠る物語~  作者: かつを
第2部:中国制覇編 ~激戦と謀略の城々~
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茶臼山城、武士の粋 第1話:敵軍の包囲

はじめまして、作者のかつをです。

 

本日より、最終章となる第二十章「包囲の中で茶会を ~茶臼山城、武士の粋~」の連載を開始します。

 

広島市安佐南区に残る茶臼山城。そこで語り継がれる、一風変わった籠城戦の伝説を基にした物語です。

血なまぐさい戦場に咲いた、一輪の花のような「武士の粋」を描きます。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

広島市安佐南区。

 

太田川の流れを見下ろす小高い山、茶臼山ちゃうすやま。その山頂にかつて存在した城は、今では静かな公園となり、市民の憩いの場となっている。

 

だが、天文十一年(一五四二年)。この場所は、安芸国あきのくににおける激しい勢力争いの最前線であった。

 

城を守るのは、白井しらい氏。攻めるは、安芸の守護・武田たけだ氏。

 

圧倒的な兵力差。絶望的な包囲網。

 

その極限状況の中で、城主が見せた常識外れの行動が、敵味方を超えて人々の心を揺さぶることになる。これは、武力ではなく、「心」で戦った武士たちの、粋で美しい伝説の物語である。

 

 

 

 

「……蟻の這い出る隙間もない、とはこのことか」

 

城兵の彦五郎ひこごろうは、城壁の隙間から眼下を埋め尽くす敵軍を見下ろし、乾いた唇を舐めた。

 

武田軍の旗指物が、波のように山を囲んでいる。その数、数千。対する我ら茶臼山城の兵は、わずか数百に過ぎない。

 

援軍のあてもなかった。

 

主家である大内氏は遠く、近隣の国人たちも武田の威勢を恐れて日和見を決め込んでいる。

 

「彦五郎、震えているのか」

 

声をかけてきたのは、古参の足軽頭、権爺ごんじいだった。

 

「震えてなんかいませんよ。ただ、武者震いってやつです」

 

彦五郎は強がりを言ったが、槍を握る手は汗で滑りそうだった。

 

「正直でいい。わしだって怖い。死ぬのは誰だって怖いもんじゃ」

 

権爺はそう言って、寂しげに笑った。

 

城内の空気は、よどんでいた。

 

水も食料も、まだある。だが、「希望」という名の糧だけが、底をつきかけていたのだ。

 

兵たちの目からは生気が失われ、ただ死を待つ囚人のような顔をしている。

 

そんな重苦しい空気の中、城主・白井房胤しらいふさたねだけは、普段と変わらぬ涼しい顔で広間に座していた。

 

「殿、いかがなされますか。このままでは、士気に関わります」

 

家老が焦燥しきった顔で進言する。

 

房胤は、手元の扇子をパチリと鳴らし、静かに言った。

 

「……そうだな。皆、退屈しておるようだな」

 

退屈?

 

死を前にして、退屈とは。

 

家老は耳を疑った。

 

だが、房胤の瞳には、絶望の色など微塵もなかった。そこには、何かとてつもないことを企んでいるような、悪戯っぽい光が宿っていた。

 

「面白い。ひとつ、敵の肝を抜いてやろうか」

 

房胤は立ち上がり、城内を見渡した。

 

その背中は、これから死地に向かう者とは到底思えぬほど、軽やかで、そして優雅だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第二十章、第一話いかがでしたでしょうか。

 

絶体絶命の窮地にあって、なお余裕を見せる城主・白井房胤。彼の真意はどこにあるのでしょうか。

 

次回、「絶望の中の静寂」。

包囲戦特有の、息詰まるような時間が流れます。

 

「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひページ下のブックマークや、☆☆☆☆☆での評価をいただけると、執筆の大きな力になります。

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