比叡尾山城、輝元の決断 第5話:輝元の夢
作者のかつをです。
第十九章の第5話をお届けします。
ついに家臣団を説得した輝元。
その背中を押したのは、三原城の実績を持つ叔父・隆景でした。
二人の知将が描く未来図が、重なった瞬間です。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
膠着する議論を打破するために、輝元は一人の人物を頼った。
叔父、小早川隆景である。
三原城を築き、水軍と商業の都を作り上げた隆景ならば、輝元の構想を理解してくれるはずだ。
三原から駆けつけた隆景は、輝元の広げた五箇の庄の絵図をじっと見つめた。
「……なるほど。ここを、埋め立てると」
「叔父上、無謀だと思われますか」
輝元が恐る恐る尋ねると、隆景は顔を上げ、ニカっと笑った。
「いいや。見事な場所じゃ。ここならば、三原を超える都ができる」
その言葉に、輝元は救われた思いがした。
翌日の軍議。
隆景の同席の元、再び議論が始まった。
「五箇への築城は、毛利百年の計である!」
隆景が、太い声で宣言した。
「山城は、戦うための城。平城は、国を富ませるための城。これからの世、戦に勝つだけでは生き残れん。銭の力が、国の力となるのじゃ」
隆景の実績に裏打ちされた言葉は、反対派の家臣たちを黙らせるのに十分な重みがあった。
そして、輝元も立ち上がった。
「皆、聞いてくれ」
彼は、自分の言葉で、熱く語り始めた。
川を活かした水運。海と繋がる交易。
城下町に集まる商人たち。賑わう市場。
そして、そこから生まれる富が、家臣たちの暮らしを豊かにする未来。
「わしは、この毛利を、日の本一豊かな国にしたいのじゃ! そのための拠点が、あの場所なのだ!」
輝元の目には、涙が光っていた。
祖父の七光りではない。
これは、輝元自身が掴み取った、新しい毛利の夢だった。
その熱意は、頑固な老臣たちの心をも動かした。
「……殿がそこまで仰るのなら」
「我らも、新しい夢とやらに、賭けてみましょうか」
一人、また一人と、賛同の声が上がった。
ついに、五箇の庄への築城が、正式に決定した。
輝元と隆景は、顔を見合わせ、深く頷き合った。
それは、毛利家が戦国大名から、近世大名へと脱皮する、歴史的な瞬間だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
小早川隆景は、輝元の良き理解者であり、後見人でした。彼の存在なくして、広島城の築城はあり得なかったかもしれません。
さて、いよいよ工事が始まります。比叡尾山城は、その拠点として最後の役割を果たすことになります。
次回、「最後の山城」。
変わりゆく景色と、去りゆく時代の物語。
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