比叡尾山城、輝元の決断 第4話:家臣たちの反対
作者のかつをです。
第十九章の第4話をお届けします。
新しいプロジェクトには、必ず抵抗勢力が現れるもの。
現代の会社組織にも通じるような、輝元の苦悩と孤立を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
吉田郡山城に戻った輝元は、すぐに重臣たちを集め、新城築城の計画を発表した。
「場所は、佐東郡五箇の庄。島々を埋め立て、平城を築く」
その言葉が終わるや否や、広間は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「殿! ご乱心召されたか!」
猛将・熊谷元直が、真っ先に声を上げた。
「あのような湿地に城を築くなど、正気の沙汰ではございませぬ! 地盤は緩く、大雨が降ればすぐに水没いたしまする!」
「左様! それに、平城など、敵に攻められればひとたまりもございませぬ。やはり、山城こそが最強。比叡尾山になさるべきです!」
他の家臣たちも、口々に反対の声を上げる。
彼らは、元就と共に戦国の世を生き抜いてきた古強者たちだ。
彼らにとって、城とは「守るための要塞」であり、険しい山の上にあるのが常識だった。
平地に、しかも泥沼の上に城を建てるなど、理解の範疇を超えていたのだ。
「それに、吉田郡山城は元就公が築かれた聖地。ここを捨てるなど、ご先祖様への冒涜にございます!」
精神論まで持ち出され、輝元は窮地に立たされた。
輝元は、一人一人を説得しようと試みた。
「これからは戦の時代ではない。経済の時代じゃ。山の中では商いが育たぬ」
「水害への備えは、十分な堤防を築けばよい」
だが、老臣たちの頑固な頭は、なかなか縦には動かなかった。
会議は踊り、結論は出ない。
輝元は、孤独だった。
祖父・元就のような圧倒的なカリスマ性も、叔父・元春のような武勇も、隆景のような知略も、自分にはないと思われていた。
「わしは、頼りない当主なのだろうか……」
夜、自室で一人、輝元は頭を抱えた。
新しいことを始めようとすれば、必ず反発がある。
だが、ここで退けば、毛利の未来はない。
その時、襖の向こうから、静かな声がした。
「……殿。お悩みのご様子ですな」
外交僧の、安国寺恵瓊だった。
彼は、秀吉の側近とも通じる、毛利家の外交の要。
「恵瓊か。……わしの考えは、間違っておるのか」
「いいえ。殿の眼力は、元就公譲りにございますよ」
恵瓊は、不敵に笑った。
「家臣たちが反対するのは、怖いからです。変化が、怖いのです。ならば、その恐怖を上回る『夢』を見せてやるしかありますまい」
その言葉に、輝元は顔を上げた。
夢。
そうだ。わしはまだ、彼らに本当の夢を語っていなかったのかもしれない。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
毛利家臣団は結束が固い反面、保守的な面も強かったと言われています。輝元が彼らを説得するのは、並大抵のことではなかったでしょう。
さて、行き詰まった輝元に、強力な援軍が現れます。
次回、「輝元の夢」。
叔父・小早川隆景が、輝元の背中を押します。
よろしければ、応援の評価をお願いいたします!




