比叡尾山城、輝元の決断 第3話:太田川のデルタ
作者のかつをです。
第十九章の第3話をお届けします。
広島のデルタ地帯。現在の繁栄からは想像もつかない湿地帯だった場所を、輝元はなぜ選んだのか。その先見性を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
輝元は、比叡尾山を下り、小舟に乗って太田川の河口、五箇の村々を巡った。
そこは、無数の川が入り組んだ、広大な湿地帯だった。
地面はぬかるみ、少し雨が降ればすぐに水没するような土地。
「殿、ここは……ひどい場所ですな」
供をした近習が、顔をしかめて言った。
「足場は悪いし、夏になれば蚊が湧く。とても、人が住めるような場所ではございません」
確かに、現状はそうだ。
だが、輝元の目には、違う景色が映っていた。
入り組んだ川は、そのまま天然の堀となり、物資を運ぶ水路となる。
瀬戸内海へと続く海路は、西国一円、さらには大坂へと繋がっている。
「ここを、埋め立てる」
輝元は、静かに言った。
「島々を繋ぎ、堤防を築き、地盤を固める。そうすれば、ここには広大な平地が生まれる」
「そ、そのような大工事、どれほどの金と人手がかかるか……!」
「やるのじゃ。毛利の総力を挙げてな」
輝元は、川面に手を浸した。
冷たく、そして豊かな水。
この水が、新しい都の血流となる。
その時、一艘の漁船が通りかかった。
漁師の老人が、輝元の立派な着物を見て、怪訝そうに声をかけてきた。
「お侍様、こんな泥沼で、何をしてなさる」
「爺、この辺りは、良い魚が獲れるか?」
「へえ。牡蠣もあさりも、よう獲れますわい。水が良いけえの」
老人の日焼けした笑顔を見て、輝元は確信した。
この土地には、力がある。
今はまだ泥にまみれているが、磨けば光る原石だ。
「ここを、毛利の新しい都にする」
輝元の心は決まった。
五箇の庄。
後に「広島」と名付けられることになるこの土地に、輝元は自らの、そして毛利家の未来を賭けることにしたのだ。
だが、その決断は、家臣団の猛烈な反対を招くことになる。
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当時の広島湾頭は、干潟と湿地が広がる場所でした。そこを埋め立てて城下町を作るというのは、現代で言えば海上に空港を作るような、壮大なプロジェクトだったことでしょう。
さて、輝元の決断に対し、保守的な家臣たちは黙っていません。
次回、「家臣たちの反対」。
城造りを巡る、激しい議論が始まります。
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