比叡尾山城、輝元の決断 第2話:新しい都
作者のかつをです。
第十九章の第2話をお届けします。
広島城が築かれる前、候補地として挙がっていた比叡尾山城。
山城の安心感と、平城の将来性。その狭間で揺れる輝元と家臣たちの姿を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
輝元が新城の候補地として目を付けたのは、吉田郡山から南へ下った、佐東郡の地だった。
そこは、太田川が瀬戸内海へと注ぐ河口付近であり、水運の便が良い。
「ここならば、海とも繋がれる」
輝元は、家臣たちを引き連れ、視察に訪れた。
まず候補に挙がったのは、佐東銀山城のある武田山や、その向かいにある比叡尾山だった。
輝元は、比叡尾山の山頂に立った。
眼下には、太田川が運んだ土砂によってできた広大なデルタ地帯(三角州)が広がっている。
「絶景かな」
ここなら、敵の動きも手に取るようにわかる。山城としての機能は申し分ない。
「殿、ここに城を築けば、吉田と同じく守りは盤石。かつ、海にも近うございます」
古参の家臣、熊谷元直が、賛同の声を上げる。
彼らのような古株は、やはり「山城」であることに安心感を覚えるのだ。平地に城を築くなど、裸で戦場に立つようなものだと考えている。
輝元も、一時はこの比叡尾山に心を動かされた。
実際、仮の砦として普請を行わせてもいる。
だが、輝元の目は、山の上ではなく、その下の広大な湿地帯へと向けられていた。
五箇と呼ばれる、五つの村が点在するデルタ地帯。
今はまだ、葦が生い茂るだけの湿地だが、あそこを埋め立て、水路を整備すれば、大坂にも負けない巨大な城下町が作れるのではないか。
「……山の上では、人は集まらぬ」
輝元は、ポツリと呟いた。
「え? 何と仰せで?」
「いや、何でもない」
輝元は、比叡尾山からの景色を目に焼き付けた。
この山は、良い城になるだろう。だが、それはあくまで「戦のための城」だ。
私が作りたいのは、戦のない世を治めるための「政の城」なのだ。
比叡尾山城。
それは、輝元にとって、過去のドグマ(山城)と決別するための、最後の迷いの地だったのかもしれない。
彼は、山を下りる決意を固めつつあった。
より困難で、より危険な、しかし、無限の可能性を秘めた、あの湿地帯へと。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
比叡尾山城(若山城とも呼ばれる)は、現在も遺構が残っており、輝元が一時的に拠点とした形跡があるそうです。
さて、山を下りることを決めた輝元。彼が目指すのは、広大なデルタ地帯です。
次回、「太田川のデルタ」。
そこは、可能性と危険が同居する場所でした。
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