比叡尾山城、輝元の決断 第1話:山城の時代の終わり
はじめまして、作者のかつをです。
本日より、第十九章「広島城、誕生の礎 ~比叡尾山城、輝元の決断~」の連載を開始します。
今回の主役は、毛利元就の孫、毛利輝元。
偉大な祖父の影を追いながらも、新しい時代に対応するために「広島城」の築城を決意するまでの、知られざる葛藤を描きます。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
広島市安佐北区。
高陽の町を見下ろすようにそびえる比叡尾山の頂に、かつて毛利氏の運命を左右する、幻の城の計画があったことを知る人は少ない。
比叡尾山城。
これは、戦国の世が終わりを告げようとしていた時代。偉大な祖父・毛利元就が築いた山城の時代に別れを告げ、新たな時代に適応しようともがいた、孫・毛利輝元の苦悩と決断の物語である。
◇
天正十六年(一五八八年)、夏。
毛利輝元は、京の都から安芸国へと戻る道中にあった。
「……都は、凄まじかったな」
輿の中で、輝元は独りごちた。
豊臣秀吉が築いた聚楽第、そして大坂城。それらは、これまで輝元が見てきた「城」という概念を根底から覆すものだった。
巨大な石垣、煌びやかな天守、そして城を中心に広がる整然とした城下町。そこには、戦のための防御機能だけでなく、政治と経済の中心としての圧倒的な「権威」があった。
それに引き換え、我が本拠地、吉田郡山城はどうだ。
山深く、険しい地形を利用した難攻不落の要塞。祖父・元就が築き上げ、尼子の大軍をも退けた名城であることは間違いない。
だが、あまりにも不便だ。
家臣たちの屋敷は谷間に散らばり、商人の行き来もままならない。有事の際の守りには適しているが、天下が統一されようとしている今、政治を行う場所としては限界が来ていた。
「時代は、変わったのだ」
輝元は、痛感していた。
もはや、山に籠もって敵を待つ時代ではない。広い平野に出て、人や物を集め、国を富ませる時代なのだ。
「新しい城が、要る」
輝元の心の中で、一つの野望が芽生え始めていた。
だが、それは同時に、偉大な祖父が築いた伝統との決別を意味していた。
吉田郡山城を捨てる。
その言葉を口にした時、家臣たちはどのような顔をするだろうか。
「殿、間もなく吉田に到着いたします」
家臣の声で、輝元は我に返った。
車窓から見える郡山の姿は、相変わらず雄大で、そしてどこか古色蒼然として見えた。
輝元は、拳を握りしめた。
毛利家が、この先の世を生き抜くためには、変わらなければならない。たとえ、どれほどの反発があろうとも。
若き当主の胸に、静かな、しかし熱い決意の火が灯った。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第十九章、第一話いかがでしたでしょうか。
豊臣政権下で五大老の一人となった輝元は、中央の政治に触れ、自国の遅れを痛感していました。山城から平城への転換は、時代の要請だったのです。
さて、新城の建設を決意した輝元。しかし、その場所選びは難航します。
次回、「新しい都」。
候補地の一つとなった、比叡尾山城の物語です。
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