甲山城、池に散った命 第6話:水面に散る(終)
作者のかつをです。
第十八章の最終話です。
悲劇の伝説と、現在の平和な風景。過去と現在を対比させながら、彼女たちの魂が安らかであることを願って物語を閉じました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
城は落ちた。
翌朝、遠征から戻った城主は、変わり果てた城と、愛する妻の死を知り、慟哭したという。
彼は裏切り者の権藤を討ち果たしたが、失われた命は二度と戻らなかった。
その後、甲山城は廃城となり、歴史の表舞台から姿を消した。
だが、村人たちは忘れることはなかった。
あの夜、池に散った女性たちのことを。
池のほとりには、誰かが手向けた野花が絶えることはなかった。
雨の日には、池の底から女性たちのすすり泣く声が聞こえるという噂も流れた。
しかし、それは怨霊の祟りなどではなかった。
この土地の人々が、彼女たちの悲しみを忘れまいとする、優しい想いが生んだ伝説だったのだろう。
◇
……現代、世羅町。
今高野山は、春には桜、秋には紅葉の名所として多くの人で賑わっている。
龍華寺の境内にある池は、今も静かに水を湛えている。
水面には赤い太鼓橋がかかり、鯉が優雅に泳いでいる。
観光客のカップルが、橋の上で写真を撮って笑い合っている。
「ここ、すごく綺麗だね」
「うん、静かでいいところだ」
彼らは知らない。
かつてこの場所で、誇りを守るために命を散らした女性たちがいたことを。
だが、それでいいのかもしれない。
彼女たちが守りたかったのは、夫の誇りであり、そして、いつか来る平和な未来だったのだから。
今のこの穏やかな風景こそが、彼女たちへの何よりの供養なのだ。
ふと、風が吹いた。
池の水面がさざ波立ち、紅葉した葉が一枚、ひらりと水に落ちた。
それはまるで、あの日の千代の着物の端切れのように、鮮やかな赤色をしていた。
(第十八章:女たちの悲劇 ~甲山城、池に散った命~ 了)
第十八章「女たちの悲劇」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
世羅町今高野山は、四季折々の自然が美しい場所です。もし訪れる機会があれば、美しい景色の奥にある歴史にも思いを馳せてみてください。
さて、物語はいよいよ佳境に入ります。
次回から、新章が始まります。
第十九章:広島城、誕生の礎 ~比叡尾山城、輝元の決断~
戦国の世が終わりを告げ、新しい時代が始まろうとする時。
毛利輝元は、山城を捨て、平地に巨大な城を築く決断をします。
広島城誕生前夜の物語です。
引き続き、この壮大な山城史探訪にお付き合いいただけると嬉しいです。
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