亀居城、福島正則の野望 第6話:野望の残骸(終)
作者のかつをです。
第十七章の最終話です。
福島正則の改易と、現代へと続く城跡の風景。
敗者の歴史もまた、土地の記憶として大切に残されていることを描いて締めくくりました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
亀居城の破却から数年後。
元和五年(一六一九年)。
福島正則様は、広島城の無断修築を理由に、安芸・備後を没収され、信州高井野へ減転封となった。
事実上の、流罪である。
幕府は、最初から正則様を潰すつもりだったのだ。亀居城の破却も、その布石の一つに過ぎなかった。
広島を去る日。
正則様は、駕籠の中から、遠く大竹の方角を眺めていたという。
そこには、かつて自らの夢と野望を託した、亀居山のシルエットがあったはずだ。
「……源二郎。わしの戦は、終わったな」
最期まで付き従ったわたくしに、正則様は寂しげに微笑まれた。
その顔には、もはや怒りはなかった。
あるのは、時代と戦い、そして敗れた男の、静かな諦念だけだった。
◇
……現代、大竹市。
亀居城跡は、今「亀居公園」として整備され、桜の名所となっている。
山頂からは、正則が見たのと同じ、穏やかな瀬戸内の海と、対岸の宮島が一望できる。
崩された石垣は、苔むし、草木に埋もれながらも、当時の面影をひっそりと伝えている。
「ここにお城があったんだって」
遊びに来た子供たちが、石垣の上を駆け回る。
その無邪気な笑い声が、かつての武人たちの無念を浄化していくようだ。
城は消えた。野望も消えた。
だが、彼らがこの地を守ろうとした「想い」だけは、形を変えて、今の平和な景色の中に溶け込んでいる。
わたくしは、風化した石にそっと手を触れた。
そこには、確かに、熱い時代の鼓動が残っていた。
(第十七章:関ヶ原、遠き戦の果てに ~亀居城、福島正則の野望~ 了)
第十七章「関ヶ原、遠き戦の果てに」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
亀居城跡は、桜の季節には多くの人で賑わいます。もし訪れる機会があれば、石垣の隙間に眠る武士たちの夢を感じてみてください。
さて、次は再び戦国時代へ。
次回から、新章が始まります。
第十八章:女たちの悲劇 ~甲山城、池に散った命~
城主の留守中に起きた裏切りと、残された女性たちの悲しい運命。
世羅町に伝わる伝説を元にした物語です。
引き続き、この壮大な山城史探訪にお付き合いいただけると嬉しいです。
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