亀居城、福島正則の野望 第5話:未完の城
作者のかつをです。
第十七章の第5話をお届けします。
自らの手で作ったものを、自らの手で壊す。その喪失感と、それでも残る職人や武士の誇りを描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
城の破却は、築城よりも遥かに辛く、悲しい作業だった。
昨日まで、この城を誇りに思っていた人夫たちが、今日はその手で城を壊さねばならない。
櫓に縄をかけ、引き倒す。
メリメリと音を立てて、柱が折れ、屋根が崩れ落ちる。
その音は、まるで城の悲鳴のように聞こえた。
「もったいない……。本当にもったいない」
石工の棟梁が、涙ながらに石垣を崩していく。
精魂込めて積み上げた石が、無造作に谷底へ突き落とされる。
ガラガラと音を立てて転がり落ちる石を見ていると、自分の身が削られるような痛みが走った。
わたくし、源二郎は、監督としてその場に立ち会っていたが、直視することができなかった。
正則様は、一度も現場に姿を現さなかった。
見たくなかったのだろう。自らの野望の象徴が、瓦礫の山へと変わっていく様を。
工事は、幕府の目付が見張る中で進められた。
「まだだ。石垣をもっと崩せ。堀を埋めろ」
彼らは冷酷に指示を出す。
「城としての機能を完全に失わせろ」と。
数ヶ月後。
亀居山の頂から、威容を誇った天守も、堅固な櫓も、すべて消え失せた。
残ったのは、崩された石垣の残骸と、平らにならされた曲輪の跡だけ。
それは、まるで最初から何もなかったかのような、虚ろな風景だった。
「……終わったな」
わたくしは、何もない山頂に立ち、風に吹かれた。
この城は、未完のまま終わった。
戦国の世の残り香と共に、歴史の闇へと葬り去られたのだ。
だが、わたくしは思った。
形はなくなっても、ここに城があったという事実は消えない。
わたくしたちが注いだ情熱も、正則様の野望も、この土の中に、石の中に、確かに染み込んでいる。
それは、誰にも壊すことのできない、我々の魂の城なのだと。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
亀居城の石垣は、幕府の命令により徹底的に破壊されました。現在残っている石垣も、上部が崩された状態で見つかっています。
さて、城を失った正則。彼の運命もまた、尽きようとしていました。
次回、「野望の残骸(終)」。
第十七章、感動の最終話です。
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