亀居城、福島正則の野望 第4話:一国一城令
作者のかつをです。
第十七章の第4話をお届けします。
歴史の教科書にも出てくる「一国一城令」。その裏で、どれほどの武士たちの無念があったのか。正則と源二郎の視点から、その痛切な思いを描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
慶長二十年(一六一五年)。
大坂夏の陣で豊臣家が滅び、名実ともに徳川の天下が定まった。
その直後、幕府から全国の大名に対して、ある法令が発布された。
「一国一城令」。
一つの国(藩)につき、残してよい城は居城一つのみ。その他の支城はすべて破却せよ、という命令である。
広島藩においては、広島城のみを残し、他の城はすべて壊せということだ。
神辺城、三原城、そして、完成したばかりのこの亀居城も。
「馬鹿な……! わしが、どれほどの思いでこの城を築いたか!」
報せを聞いた正則様は、激昂し、扇子を床に叩きつけた。
「この城は、西の守りの要ぞ! これを壊せば、安芸国は丸裸同然ではないか!」
だが、幕府の命令は絶対だ。
逆らえば、改易、すなわちお家取り潰しが待っている。
家老たちが、必死に正則様を諫めた。
「殿、ご無念は重々承知しております。ですが、ここで逆らえば、福島家そのものが滅びまする。ここは、涙を飲んで……」
正則様は、赤鬼のような顔で沈黙した。
その体は怒りで震えていたが、やがて、力が抜けたように肩を落とした。
「……壊せ」
絞り出すような声だった。
「自らの手で、この城を壊せと申すか……」
その言葉を聞いた時、わたくし、源二郎は、胸が張り裂ける思いだった。
わたくしたちが、三年もの歳月をかけ、血と汗を流して築き上げた城。
まだ、一度も戦に使われることなく。
主君を守るという役目を果たすこともなく。
ただ、幕府の命令一つで、消え去らねばならないのか。
これが、武士の世の習いだというのか。
翌日、破却の命令が城内に伝えられた。
兵たちの間には、動揺と、やり場のない怒りが広がった。
だが、誰も文句を言う者はいなかった。
皆、わかっていたのだ。
主君の苦渋の決断を。そして、時代が変わってしまったことを。
わたくしは、石垣を撫でた。
冷たく、硬い石の感触。
「……すまぬ。お前を守ってやれなくて、すまぬ」
わたくしの目から、涙がこぼれ落ちた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
一国一城令は、大名の軍事力を削ぐための幕府の巧妙な政策でした。これにより、全国で多くの名城が姿を消しました。
さて、ついに解体工事が始まります。
次回、「未完の城」。
築くよりも辛い、壊すという作業。
物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!




