亀居城、福島正則の野望 第3話:幕府の監視
作者のかつをです。
第十七章の第3話をお届けします。
完成した城と、幕府からの圧力。武勇を誇った正則が、時代の変化という見えない敵に追い詰められていく様を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
慶長十六年(一六一一年)。
三年余りの歳月をかけ、亀居城はついに完成した。
山頂にそびえる天守、迷路のように入り組んだ虎口、高く積まれた石垣。
それは、瀬戸内の海に浮かぶ要塞、まさに難攻不落の城だった。
「見事じゃ、源二郎! これで毛利も、手出しはできまい!」
完成した城を見て、正則様は上機嫌だった。
だが、その喜びは長くは続かなかった。
城の完成とほぼ同時に、江戸の幕府から詰問の使者がやってきたのだ。
「――福島殿。この城は、いささか過ぎたるものではないか」
使者の言葉は慇懃無礼だった。
「西国への抑えとして、必要な備えをしたまで。他意はない」
正則様は懸命に弁明した。
だが、幕府は聞く耳を持たなかった。
「これほどの城を築くには、莫大な金と人が動いたはず。その力、もしや公儀に向けるおつもりか」
言いがかりだ。
わたくしは、悔しさで拳を握りしめた。
正則様は、関ヶ原でも大坂の陣でも、徳川のために命を張って戦った。
それなのに、なぜこれほどまでに疑われねばならないのか。
「……わかった。ならば、検使を受け入れよう。城の隅々まで検分するがよい」
正則様は、屈辱を飲み込んで言った。
幕府の役人たちが、土足で城に入り込み、粗探しを始めた。
彼らは、石垣の高さ、堀の深さ、櫓の数、すべてを帳面に記録していく。
それはまるで、罪人の取り調べのようだった。
わたくしたちが血と汗を流して築き上げた誇り高き城が、彼らの目には、ただの「反逆の証拠」としか映っていないのだ。
夜、正則様は一人、天守で酒を煽っていた。
「……源二郎。世の中は、変わってしまったのう」
その背中は、かつての猛将の面影はなく、小さく、寂しげに見えた。
槍働きで出世できる時代は終わった。
これからは、机の上で地図を書き換えるような、冷徹な政治の時代なのだ。
完成したばかりの亀居城は、主君の栄光を飾る玉座ではなく、主君を縛り付ける檻のように、月明かりの下で静まり返っていた。
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徳川家康は、豊臣恩顧の大名たちの力を削ぐために、様々な口実をつけて難癖をつけました。築城もその一つだったのです。
そして、ついに決定的な命令が下されます。
次回、「一国一城令」。
正則の野望は、無残にも打ち砕かれます。
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