亀居城、福島正則の野望 第2話:天下普請
作者のかつをです。
第十七章の第2話をお届けします。
最新技術を投入して築かれる亀居城。現場の熱気と、忍び寄る幕府の影。
男たちの情熱が、皮肉にも自らの首を絞めることになっていく予兆を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
築城工事が始まった。
亀居山は、蟻の這い出る隙間もないほどの人夫で溢れかえった。
カン、カン、という石を削る音が、朝から晩まで響き渡る。
わたくし、源二郎は、現場を駆け回り、石垣の積み方を指示した。
正則様は、「野面積み(のづらづみ)」ではなく、石を整形して積む「打ち込み接ぎ(はぎ)」や「切り込み接ぎ」といった、当時最先端の技術を求めた。
「美しく、そして高く。敵が登る気をなくすような石垣にせよ!」
正則様は、頻繁に現場を訪れ、自ら檄を飛ばした。時には、人夫たちに酒を振る舞い、豪快に笑った。
「殿のためなら、えんやこら!」
人夫たちの士気は高かった。正則様は、荒っぽい性格だが、裏表がなく、部下思いの親分肌。皆、この殿様が好きだったのだ。
巨大な花崗岩が、次々と運び上げられる。
わたくしたちは、汗と泥にまみれながら、一つ一つの石に魂を込めた。
この城が完成すれば、西国街道の守りは盤石となる。
福島家の武威は、天下に轟くはずだ。
だが、工事が進むにつれ、不穏な影もちらつき始めた。
現場には、時折、見慣れぬ商人の姿や、旅の僧侶が姿を見せるようになった。
彼らは、工事の進み具合や、城の縄張り(設計図)を、鋭い目つきで観察していた。
「……公儀の隠密か」
わたくしは、背筋が寒くなるのを感じた。
徳川幕府は、豊臣恩顧の有力大名である福島正則を、警戒している。
この築城が、単なる防衛のためではなく、徳川への反逆の準備ではないかと、疑っているのだ。
「源二郎、気にするな。やましいことは何もない。わしは、徳川殿のために、西の守りを固めているのじゃ」
正則様は、そう言って笑い飛ばした。
だが、その笑顔の奥に、隠しきれない焦りと、時代への苛立ちが見え隠れしているのを、わたくしは感じ取っていた。
石垣は高く積み上がっていく。
それは、正則様の野望の高さであり、同時に、幕府の疑惑を招く塔でもあった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
亀居城の石垣は、崩された今でも一部が残っており、その精巧な技術をうかがい知ることができます。
さて、完成に近づく城。しかし、幕府の監視は厳しさを増していきます。
次回、「幕府の監視」。
政治的な圧力が、正則を追い詰めます。
よろしければ、応援の評価をお願いいたします!




