亀居城、福島正則の野望 第1話:西国への抑え
はじめまして、作者のかつをです。
本日より、第十七章「関ヶ原、遠き戦の果てに ~亀居城、福島正則の野望~」の連載を開始します。
今回の舞台は、広島県の西の端、大竹市にある亀居城跡です。
築城からわずか数年で破却されたこの「幻の城」に込められた、猛将・福島正則の想いと、時代の変化を描きます。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
広島県大竹市。
広島と山口の県境、小瀬川の河口を見下ろす亀居山の頂に、かつて短期間だけ存在した「幻の城」があった。亀居城。
関ヶ原の戦いの後、安芸・備後四十九万石の太守となった猛将・福島正則が、西国街道の要衝に築いた堅城である。
これは、戦国の世が終わり、徳川による泰平の世が始まろうとする中で、時代に取り残された武人の野望と、政治の冷徹な論理に翻弄された、未完の城の物語である。
◇
慶長十三年(一六〇八年)。
わたくし、石田源二郎は、主君・福島正則様の命を受け、この大竹の地に立っていた。
眼下には瀬戸内の海が広がり、対岸には周防国、すなわち毛利家の領土が見える。
「よいか、源二郎。ここが最前線じゃ」
正則様は、太い指で対岸を指さした。
「関ヶ原で敗れ、防長二国に押し込められた毛利は、虎視眈々と捲土重来を狙っておる。奴らが動く時、必ずやこの小瀬川を渡ってくる。ここを塞がねば、安芸国は守れん」
正則様の声には、熱気がこもっていた。
関ヶ原では東軍につき、徳川家康公の勝利に貢献した正則様。だが、その心根はあくまで豊臣恩顧の武将であった。
徳川の世になりつつある今も、正則様の中では「戦」は終わっていなかったのだ。
「ここに城を築く。毛利を震え上がらせるような、天下無双の堅城をな」
その構想は壮大だった。
山頂の本丸から麓まで、全山を石垣で覆い尽くす総石垣の城。
わたくしは、普請奉行の一人として、この築城工事を任された。
「殿の期待に応えてみせる」
わたくしは、武者震いした。
だが、同時に一抹の不安も感じていた。
世はすでに、武力ではなく法と秩序で治める時代へと移り変わりつつある。
そんな中で、これほど露骨に戦を想定した城を築くことが、果たして徳川幕府にどう映るのか。
正則様の純粋すぎる武人としての魂が、かえって福島家の首を絞めることになりはしないか。
吹き抜ける海風は、新しい時代の冷たさを孕んでいるように思えた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第十七章、第一話いかがでしたでしょうか。
毛利家への備えとして築かれた亀居城。しかし、その存在自体が、新たな火種となっていきます。
さて、いよいよ壮大な築城工事が始まります。
次回、「天下普請」。
石垣に込められた、男たちの熱い魂の物語です。
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