神辺城、備後の栄枯盛衰 第7話:石垣は語る(終)
作者のかつをです。
第十六章の最終話です。
城はなくなっても、その歴史と記憶は消えない。現代の風景の中に、過去の物語を見出す。
そんな思いを込めて、この章を締めくくりました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
神辺城が廃城となってから、四百年以上の月日が流れた。
かつて備後の中心であったその場所は、今、「吉野山公園」として整備され、桜の名所となっている。
春になれば、満開の桜が城跡を埋め尽くし、多くの花見客で賑わう。
子供たちの笑い声。宴会の賑やかな音。
それは、かつてこの場所にあった殺伐とした戦国の空気とは無縁の、平和な光景だ。
だが、注意深く歩けば、草むらの中に、土に埋もれた石垣の痕跡を見つけることができる。
苔むしたその石は、何も語らない。
しかし、その沈黙の中に、かつてここに生きた人々の熱い息吹が閉じ込められている。
山名氏の栄華。
大内と尼子の争奪戦。
杉原盛重の復興への情熱。
そして、福島正則による解体と、福山への継承。
幾多の城主が入れ替わり、多くの民がこの山を見上げ、祈り、涙し、そして生きた。
◇
……現代、福山市神辺町。
山頂の本丸跡に、一人の老人が立っている。
彼は、眼下に広がる神辺の町並みと、その向こうに見える福山の市街地を眺めていた。
「ここから、すべてが始まったんじゃな」
老人は呟く。
神辺城は消えた。
だが、備後の歴史の「へそ」として、この地が果たした役割は決して消えることはない。
福山城の石垣の中に、そして、この地域に根付く文化や人々の気質の中に、神辺城の遺伝子は確かに受け継がれている。
風が吹いた。
桜の花びらが舞い上がり、空へと溶けていく。
それは、かつてこの地で散っていった名もなき人々の魂が、今の平和を祝福しているかのようだった。
時代の奔流に消えた城。
しかし、その記憶は、私たちの足元に、今も静かに眠っている。
(第十六章:時代の奔流に消えた城 ~神辺城、備後の栄枯盛衰~ 了)
第十六章「時代の奔流に消えた城」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
神辺城跡は、歴史ロマンを感じられる素晴らしい場所です。福山城を訪れる際は、ぜひそのルーツである神辺にも足を運んでみてください。
さて、物語はいよいよ終盤へ。
戦国時代の終わり、江戸時代の始まり。その狭間で揺れた、もう一つの「未完の城」の物語です。
次回から、新章が始まります。
第十七章:関ヶ原、遠き戦の果てに ~亀居城、福島正則の野望~
福島正則が築き、そしてすぐに壊された幻の城。そこに込められた野望と、幕府の冷徹な計算。
歴史の闇に葬られた真実に迫ります。
引き続き、この壮大な山城史探訪にお付き合いいただけると嬉しいです。
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