神辺城、備後の栄枯盛衰 第4話:関ヶ原の激震
作者のかつをです。
第十六章の第4話をお届けします。
関ヶ原の敗戦による毛利家の退去。それは備後の人々にとって、生活の基盤が覆される大事件でした。
去りゆく者と残される者、その哀愁を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
慶長五年(一六〇〇年)。
あの日、神辺の城下に早馬が駆け込んできた時の衝撃を、わたくしは一生忘れないだろう。
「関ヶ原にて、西軍、大敗!」
その一報は、雷鳴のように町を揺るがした。
毛利輝元様が総大将を務めた西軍が、徳川家康率いる東軍に敗れた。
それは、我々備後の民にとって、天地がひっくり返るような出来事だった。
「毛利様は、どうなるんじゃ?」
「この神辺城は、どうなる?」
不安が疫病のように広がる。
城内の武士たちも、浮き足立っていた。城主はすでに大坂へ出陣しており、留守を預かる者たちは情報も入らず、右往左往するばかり。
やがて、最悪の知らせが届いた。
「毛利家は、防長二国へ減封」
つまり、この安芸・備後の地は、毛利の手から離れるということだ。
長年親しんだ毛利の家臣たちが、涙ながらに城を去っていく。
「達者でな」「新しい領主様の下でも、商いに精を出せよ」
馴染みの武士が、わたくしの店に別れの挨拶に来た。
わたくしは、餞別の筆を包んで渡しながら、涙が止まらなかった。
「……また、戦になるのでしょうか」
「わからぬ。だが、次は徳川の世じゃ。荒れることはあるまい」
武士は寂しげに笑い、去っていった。
主のいなくなった神辺城は、秋風の中で寒々と佇んでいた。
あれほど威容を誇っていた石垣が、急に色あせて見えた。
城は、主君の力があってこそ輝くもの。
主を失った城は、ただの石と木の塊に過ぎないのだ。
そして、新しい領主の名が告げられた。
福島正則。
豊臣恩顧の猛将でありながら、関ヶ原では東軍の先鋒として活躍した男。
「荒っぽいお方だと聞くぞ」
「この町も、どうなることやら」
町衆の不安をよそに、新しい時代の足音は、軍靴の響きと共に近づいてきていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
毛利家の支配は半世紀近く続きました。その終わりは、この地方の歴史の大きな転換点となりました。
さて、新領主・福島正則の登場です。彼が神辺城に下した決断とは。
次回、「新領主・福島正則」。
神辺城の運命が、大きく変わります。
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