神辺城、備後の栄枯盛衰 第2話:めまぐるしい城主
作者のかつをです。
第十六章の第2話をお届けします。
大内と尼子の勢力争いの最前線となった神辺城。
翻弄される庶民の視点から、終わりの見えない戦乱の疲弊と無常感を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
応仁の乱以降、神辺城はまさに「草刈り場」となった。
西の大国・大内氏と、北の雄・尼子氏。二大勢力がこの備後の要衝を巡って、何度も激突したのだ。
わたくし、市兵衛の店も、戦火で焼けては建て直し、また焼けては建て直す。その繰り返しだった。
「今度の城主様は、どこのどなたじゃ?」
「さあな。先月までは大内様の家臣だったが、昨日は尼子の旗が立っておった。今日はまた変わっとるかもしれん」
城下の井戸端では、そんな自嘲気味な会話が日常となっていた。
城主が変わるたびに、町の掟が変わる。
年貢の取り立てが変わる。
そして、通貨すらも変わることがあった。
我々町人は、新しい支配者の顔色をうかがい、へつらい、生き延びるしかなかった。
ある年の冬。
城下に、杉原という地元の国人が城主として入った。
「おお、今度は地元の武士様か。これで少しは落ち着くかもしれん」
町衆は期待した。
杉原様は、確かに乱暴な他国の武士よりは話が通じた。荒れた城下町の復興にも力を入れてくれた。
だが、それも束の間。
「神辺城の杉原、大内を裏切り尼子に寝返った!」
そんな噂が流れたかと思うと、すぐに大内軍の大軍が押し寄せてきた。
「神辺合戦」と呼ばれる、七年にも及ぶ泥沼の戦いの始まりだった。
城は包囲され、町は陣地となり、我々の商売は完全に止まった。
わたくしは、荒れ果てた店の中で、妻と二人、少なくなった米をすすりながら、山上の城を見上げた。
かつては備後の王者として輝いていた城。
今は、傷つき、煤け、見る影もなく疲れ果てているように見えた。
「……城というものは、人を守るためにあるのではなかったのか」
妻がぽつりと呟いた。
その言葉に、わたくしは何も答えられなかった。
主が替わり、旗が替わるたびに、多くの血が流れ、民が泣く。
神辺城は、備後の中心であるがゆえに、その運命として戦乱を呼び寄せてしまう呪われた存在になってしまったのかもしれない。
「いっそ、城などなくなってしまえば……」
そんな不敬な思いが、ふと頭をよぎった。
だが、時代はさらに大きく動こうとしていた。
安芸の国で、毛利元就という男が急速に力をつけ、この備後にも手を伸ばし始めていたのだ。
新たな支配者の足音が、近づいていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「神辺合戦」は、実際に数年にわたって繰り広げられた激戦でした。この城を制する者が備後を制する。それほど重要な拠点だったのです。
さて、混乱の極みにある備後に、ついに毛利の旗が翻ります。
次回、「毛利の支配」。
新たな城主、杉原盛重の登場です。
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