新高山城、知将の助走 第7話:三原へ(終)
作者のかつをです。
第十五章の最終話です。
家臣を掌握し、初陣を勝利で飾った隆景。彼がついに自らの壮大な夢である三原城築城へと踏み出す、その決意の瞬間を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
初陣を見事な勝利で飾った、わたくし小早川隆景。
その報せはすぐに安芸、備後の国人たちの間に広まり、あれほどわたくしを侮っていた譜代の家臣たちも、今では完全にわたくしに心服していた。
「殿、お見事にございました!」
かつてわたくしに反発していた田坂義詮が、まるで別人のようにへりくだっている。
わたくしは、ようやく名実ともにこの小早川家の当主となれたのだ。
そして、わたくしは家臣たちを集め、一つの決意を告げた。
新高山城の築城を、中止する、と。
「な……なぜにございますか! あと少しで完成では……!」
家臣たちは驚き、どよめいた。
わたくしは静かに首を横に振った。
「わしは、この新高山城を越える、新しい城を築くことに決めた」
そしてわたくしは地図を広げ、一つの場所を指さした。
沼田川の河口。
三原の海だ。
「ここに城を築く。海を埋め立て、海に浮かぶ城をな」
家臣たちは皆、言葉を失っていた。
わたくしが正気ではないとでも思ったのだろう。
だが、わたくしの目は本気だった。
「もはや山に籠もる時代は終わった。これからは海を制する者が天下を制する。この三原の地に毛利水軍のすべてを集め、一大拠点を築く。そしてこの地を、日の本一の商いの町とするのだ」
それは数年前、わたくしが初めてこの地に来た時に描いた夢。
あの頃はまだ夢物語に過ぎなかった。
だが、今は違う。
わたくしにはこの夢を実現させる力がある。
わたくしを信じ、ついてきてくれる家臣たちがいる。
この雌伏の数年間は、決して無駄ではなかったのだ。
わたくしはもはや、父や兄の影に怯える若造ではない。
毛利を支える両翼の一つ。
小早川隆景として、天下の舞台へと羽ばたく時が来たのだ。
わたくしは天守から、三原の海を見つめた。
その穏やかな水面の向こうに、新しい時代の夜明けが見えた気がした。
◇
……現代、三原市。
新高山城跡から眼下を見下ろせば、かつて海だった場所に三原の市街地が広がっている。
その町の中心には、新幹線の駅と一体化した三原城の石垣が今もその威容を誇っている。
それは、一人の若き知将が雌伏の時を乗り越え、未来へと羽ばたいた「助走」の証。
彼の壮大な夢の始まりを、今に伝える記憶の礎なのだ。
(第十五章:若き隆景、雌伏の時 ~新高山城、知将の助走~ 了)
第十五章「若き隆景、雌伏の時」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
名門を継いだ若き当主の苦悩と成長の物語は、いかがでしたでしょうか。この雌伏の時代が、後の名将、小早川隆景を作り上げたのです。
さて、次なる物語はいよいよ時代の終わりへと向かいます。
次回から、新章が始まります。
第十六章:時代の奔流に消えた城 ~神辺城、備後の栄枯盛衰~
備後国の中心として栄えた神辺城。しかし、時代の流れは残酷です。その栄光と終焉を、「城」そのものの視点から描いてみたいと思います。
引き続き、この壮大な山城史探訪にお付き合いいただけると嬉しいです。
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