新高山城、知将の助走 第4話:内政の試練
作者のかつをです。
第十五章の第4話をお届けします。
今回は、若き隆景の為政者としての才能が開花するエピソードです。彼の地道な努力が、少しずつ実を結んでいきます。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
自らの進むべき道が定まってから、わたくし小早川隆景の仕事は一変した。
わたくしはもはや、戦のことには口を挟まなくなった。
その代わりに、領内の隅々にまで自ら足を運び、民の声に耳を傾けることに専念した。
「殿様、今年は長雨で稲が根腐れしてしまい、年貢を納めるのがやっとでございます」
「沼田川が一度氾濫すれば、我らの畑はすべて水の底に……」
民の暮らしは、わたくしが思うていた以上に厳しく、そして脆いものだった。
高山城に戻ったわたくしは、すぐに家臣たちを集めた。
そして、新たな策を打ち出した。
一つは大規模な検地のやり直し。
そしてもう一つは、沼田川の治水工事。
しかし、その二つの策に宿老たちが猛反対した。
「殿! 検地をやり直せば、必ずや民の不満が高まりますぞ!」
「治水工事など途方もない銭と時間がかかりまする! 今は戦の備えをすべき時!」
譜代の家臣たちの抵抗は根強かった。
だが、わたくしはもう迷わなかった。
「わしは決めた。この小早川の領地を日の本一豊かな国にする。そのためにはこの改革は必要不可欠じゃ。異論は認めぬ」
わたくしのその揺るぎない態度に、あれほど反発していた田坂義詮でさえ何も言えなくなった。
工事は困難を極めた。
だが、わたくしは自ら現場に立ち、人夫たちと共に汗を流した。
検地も不正が行われぬよう、わたくしがすべて目を通した。
最初は遠巻きに見ていただけの領民たちも、わたくしのその本気の姿を見て少しずつ協力的になってくれた。
数年後。
沼田川には見事な堤が完成し、新しく切り開かれた田畑がどこまでも広がっていた。
年貢の収穫高は以前の倍近くになった。
そして何よりも、民たちの顔に笑顔が戻っていた。
「隆景様はまこと、名君じゃ」
そんな声がわたくしの耳にも届くようになった。
わたくしはこの時初めて、将としての本当の喜びを知った。
敵を斬り、城を落とすことだけが戦ではない。
国を富ませ、民を笑顔にすること。
それこそがわたくしの戦なのだ、と。
わたくしは確かな手応えを感じていた。
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小早川隆景は軍事的な才能だけでなく、優れた内政手腕の持ち主でもありました。彼の築いた経済的な基盤が、後の毛利家の発展を大きく支えることになります。
さて、陸の領地を固めた隆景。彼の目は、次なる舞台へと向けられます。
次回、「水軍の掌握」。
瀬戸内の海の荒武者たちとの対決です。
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