大可島城、足利義昭の亡命 第2話:将軍様がやってきた
作者のかつをです。
第十四章の第2話をお届けします。
今回は、ついに足利義昭が鞆の浦に到着します。歴史の表舞台から転落した将軍と、それをビジネスチャンスと捉える商人。その対比を描いてみました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
噂は、まことだった。
二月も半ばを過ぎた頃、足利義昭様ご一行がついに鞆の浦にお着きになった。
わたくし、湊屋惣助も町の者たちと共に、浜辺でその行列を出迎えた。
想像していた落ち武者の行列とは、まるで違っていた。
先導するのは毛利家の精鋭たち。その後ろに、公家衆や幕臣たちがきらびやかな衣装を身に纏い続く。
そしてその中心に、義昭様の御座船が静かに港へと入ってきた。
船から現れた義昭様は、やつれてはおられたものの、その立ち姿には生まれながらの高貴な品格が漂っていた。
「……あれが、公方様か」
誰かが畏敬の念を込めて呟いた。
我ら町衆は皆、その場にひれ伏した。
義昭様は我らには一瞥もくれず、毛利家の重臣、小早川隆景様に導かれて馬に乗られた。
一行が向かうのは、港の入り口に浮かぶ大可島。
そこに、かつて我らが海賊への備えとして築いた大可島城がある。
その古びた砦が、今日から「御所」となるのだ。
行列が通り過ぎた後、町は興奮のるつぼと化した。
「見たか! あの、お召し物を!」「京のお公家様もおられたぞ!」
わたくしの商人の血も騒いでいた。
これは千載一遇の好機だ。
これだけの人々が滞在されるのだ。食料、酒、薪炭、衣類、ありとあらゆるものが必要になる。
わたくしはすぐに店に戻ると、手代たちに矢継ぎ早に指示を出した。
「すぐに西国の取引先に文を出せ! 米も酒も塩も、根こそぎ買い付けろ!」「蔵を空けろ! すべて鞆の浦に運び込むんだ!」
手代たちが目を白黒させている。
「若旦那、そんな無茶な!」「金が足りませぬ!」
「わたくしの私財をすべて叩け! この湊屋の命運を、この博打に賭けるのじゃ!」
わたくしは確信していた。
この鞆の浦は変わる。
公方様がおいでになったこの日から、ただの潮待ちの港から日本の歴史が動く舞台へと生まれ変わるのだ。
そしてその中心で、わたくし湊屋惣助が巨万の富を築いてみせる。
わたくしの野望の帆が今、大きく風をはらんだ瞬間だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
鞆の浦に幕府が移ってきた。これを「鞆幕府」と呼びます。この小さな港町が、一時的に日本の政治の中心の一つとなったのです。
さて、惣助の野望は叶うのでしょうか。
次回、「鞆幕府」。
港町は空前の好景気に沸き立ちます。
よろしければ、応援の評価をお願いいたします!




