表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山城史探訪 ~広島の地に眠る物語~  作者: かつを
第2部:中国制覇編 ~激戦と謀略の城々~
104/149

矢野城、小領主の選択 第6話:生き残った者(終)

作者のかつをです。

第十三章の最終話です。

 

主人公、隆実の悲劇的な最期と、その思いを継いで生き残った妻、小夜の視点から物語を締めくくりました。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

わたくし、野間隆実の賭けは、見事に外れた。

 

毛利元就は吉田郡山城で、尼子の大軍を打ち破るという奇跡を成し遂げた。

 

そして、その勢いのまま矛先を安芸国内の敵対勢力の一掃へと向けたのだ。

 

もちろん、その中にはどちらにもつかなかった我ら野間家も含まれていた。

 

天文十一年(一五四二年)。

 

毛利の大軍が、矢野城へと押し寄せてきた。

 

わたくしたちは必死に抵抗した。

 

だが、吉田郡山での勝利で勢いに乗る毛利軍の猛攻は凄まじかった。

 

城は数日で落ちた。

 

わたくしは妻、小夜とまだ幼い息子を城から逃がした。

 

そして、わたくしは一族の者たちと共に城と運命を共にした。

 

武士として、誇りある最期だったと思うておる。

 

 

 

 

私は、小夜。

 

野間隆実の妻であった女。

 

夫の最後の命令に従い、私は幼い息子を連れて城を落ち延びた。

 

そして、故郷である平賀の元で息を潜めるように生きた。

 

息子は幸い、毛利家から許され、野間家の血を後世に伝えることができた。

 

私は、それだけを支えに生きてきた。

 

時が流れ、毛利がこの中国地方の覇者となった頃。

 

私は一度だけ、密かに矢野の地を訪れた。

 

かつて矢野城があった丘の上には、もう何も残ってはいなかった。

 

ただ、草木が生い茂っているだけ。

 

私はそこに立ち、夫、隆実のことを思った。

 

あの人は愚かだったのやもしれぬ。

 

もっとうまく立ち回れば、家を滅ぼさずに済んだのかもしれぬ。

 

だが、あの人は最後まで己の誇りを捨てなかった。

 

そして何よりも、民を、家族を愛していた。

 

それで、よい。

 

それで、よかったのだと。

 

私はそう信じている。

 

 

 

 

……現代、広島市安芸区。

 

矢野城跡には今、その歴史を伝える案内板がひっそりと立っているだけだ。

 

だが、その丘の上に立てば、今も昔と変わらぬ穏やかな海田湾を望むことができる。

 

巨大な時代のうねりの中で生き残りを賭けて戦い、そして散っていった一人の若き城主がいたこと。

 

彼の苦悩の末の選択を、歴史はただ静かに見守っている。

 

(第十三章:瀬戸内の十字路で生き残れ ~矢野城、小領主の選択~ 了)

第十三章「瀬戸内の十字路で生き残れ」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

 

戦国の世、毛利の勢力拡大の陰では、このように滅びていった数多くの国人領主たちがいました。彼らの悲劇の上に、今の広島の歴史は成り立っているのかもしれません。

 

さて、次なる物語は、瀬戸内海に浮かぶ港町、鞆の浦が舞台です。

 

次回から、新章が始まります。

第十四章:鞆の浦の守り神 ~大可島城、足利義昭の亡命~

 

織田信長に追われた室町幕府最後の将軍、足利義昭。彼が再起を夢見た港町の物語です。

 

引き続き、この壮大な山城史探訪にお付き合いいただけると嬉しいです。

ブックマークや評価で応援していただけると、第十四章の執筆も頑張れます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ