矢野城、小領主の選択 第4話:毛利の台頭
作者のかつをです。
第十三章の第4話をお届けします。
ついに毛利元就が本格的に物語に介入してきます。大国の狭間で翻弄される小領主の苦悩が、さらに深まっていきます。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
平賀家との縁組が決まり、矢野城内は久しぶりに明るい祝賀の空気に包まれていた。
これで大内、尼子の両家も我らを侮ることはできまい。
わたくし、野間隆実の心にもわずかな安堵が生まれていた。
だが、その平穏は長くは続かなかった。
「申し上げます! 吉田郡山城より、毛利元就様の使者!」
その報せに、わたくしは思わず眉をひそめた。
毛利が今頃、何の用だ。
広間に現れた使者は、わたくしが平賀家と縁組を結んだことを寿ぐという口上を述べた。
しかし、その本題は別にあった。
「――つきましては、我が主、元就も貴殿と誼を結びたく存じておりまする。我ら毛利の傘下にお入りくだされ。さすれば、尼子、大内、両家からの圧力は我らがすべて引き受けましょうぞ」
第三の選択肢。
わたくしは言葉を失った。
「……元就殿は、わたくしに大内家を裏切れと申されるか」
「滅相もございません。ですが、もはや大内家の威光に昔日の面影はございませぬ。いずれこの安芸国は、我が主、元就がまとめることになりましょう。賢明なるご判断を」
その言葉はどこまでも丁寧だった。
だが、その裏には有無を言わせぬ脅しが隠されている。
もしこの誘いを断れば、次は敵として会うことになるぞ、と。
わたくしは身の内から震えがこみ上げてくるのを感じた。
恐ろしい男だ。
わたくしが平賀家と手を結び、少しでも力をつけようとしたその矢先に、こうして釘を刺してくるとは。
すべてあの男の掌の上で踊らされているかのようだ。
軍議は再び大混乱に陥った。
「何を言うか! 今度は毛利に尻尾を振るのか!」
「だが、毛利の勢いはもはや無視できぬぞ!」
大内派、尼子派に今度は親毛利派まで加わり、城内は三つ巴の権力争いの様相を呈してきた。
わたくしはもう、どうすればいいのかわからなかった。
大内か、尼子か、それとも毛利か。
どの道を選んでも、その先には戦の地獄が口を開けて待っている。
わたくしが求めていたのは、ただこの故郷の平和な暮らしを守ることだけだったというのに。
そのささやかな願いさえも、この乱世は許してはくれないのか。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
毛利の台頭は安芸国の勢力図を一気に塗り替えていきました。野間氏のような中小の国人領主たちは、まさに生き残りを賭けた選択を迫られたのです。
さて、三つの大国に囲まれ進退窮まった隆実。彼が下す最後の決断とは。
次回、「最後の賭け」。
彼の運命が決まります。
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