矢野城、小領主の選択 第3話:縁組という名の鎖
作者のかつをです。
第十三章の第3話をお届けします。
今回は政略結婚という、戦国時代の常套手段をテーマにしました。道具として出会った二人の間に芽生えるかすかな絆。しかし、その背後には謀神の影が……。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
八方塞がりの状況の中、わたくし野間隆実は一つの活路を見出そうとしていた。
政略結婚である。
相手は安芸のもう一つの有力国人、平賀氏の姫君。
平賀氏は巧みな外交で、大内、尼子の両家と等距離を保っている。
この平賀氏と縁組を結ぶことで野間家の立場を強化し、毛利や他の国人たちへの牽制とする。
それがわたくしの狙いだった。
「……悪くないお考えかと」
傅役の治部も、その策には賛同してくれた。
話はとんとん拍子に進んだ。
平賀氏もまた毛利の台頭を快くは思っておらず、我ら野間家との連携を望んでいたのだ。
数日後、わたくしは相手の姫君、小夜と見合いの席を持つことになった。
正直、期待はしていなかった。
どうせ家のための道具。好き嫌いを言える立場ではない。
だが、御簾の向こうから現れた小夜は、わたくしの想像を遥かに超えて美しかった。
そして何よりも、その瞳には聡明な光が宿っていた。
「……野間様。この度の縁談、それがただの政の道具であることは、わたくしも承知しておりまする」
小夜は静かに言った。
「じゃが、夫婦となるからには、わたくしは貴方様を、そして野間家を力の限り支えたいと思いまする。共にこの乱世を生き抜いてはくれませぬか」
その真っ直ぐな言葉に、わたくしは胸を打たれた。
この姫となら。
この姫となら、わたくしも変われるかもしれない。
弱気な自分を捨て、一国一城の主として強くなれるかもしれない。
「……かたじけない。わたくしの方こそ、よろしくお願い申す」
わたくしは深々と頭を下げた。
生まれて初めて、わたくしの心に温かい光が差し込んだような気がした。
だがこの時、わたくしはまだ知らなかった。
この縁組という細い蜘蛛の糸が、やがてわたくしたちをさらに複雑な運命の迷宮へと引きずり込んでいくことになるということを。
そして安芸の国には、もう一人、この縁談を冷ややかに見つめる男がいたということを。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
政略結婚は家と家とを結びつける重要な外交手段でした。しかし、それは常に危険と隣り合わせの賭けでもありました。
さて、一筋の光明を見出した隆実。しかし、彼の知らないところで安芸国の勢力図は大きく塗り変わろうとしていました。
次回、「毛利の台頭」。
ついに第三の勢力が、矢野城にその姿を現します。
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