矢野城、小領主の選択 第2話:大内か、尼子か
作者のかつをです。
第十三章の第2話をお届けします。
今回は城内で繰り広げられる家臣たちの激しい対立と、その間で決断を下せずに苦悩する若き城主の姿を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
その日の軍議は、最初から荒れていた。
わたくし、野間隆実が広間に姿を現す前から、家臣たちの怒声が飛び交っているのが聞こえてきた。
「何を言うか! 我ら野間家は代々大内様に仕えてきた! ここで尼子に寝返るなど、武士の風上にも置けぬわ!」
声を荒らげているのは、先代からの宿老、熊谷丹波守。親大内派の筆頭だ。
「丹波守殿! 時代をお読みくだされ! もはや大内の威光に陰りが見えているは誰の目にも明らか! 今、勢いがあるのは尼子! 生き残るためには、強い方につくのが戦の常道にござる!」
それに噛みついているのは、若手急進派の頭領、杉原三郎太。
広間は親大内派と親尼子派、真っ二つに割れていた。
わたくしが上座に着くと、彼らは一斉にわたくしに視線を向けた。
「殿! ご決断を!」
その突き刺さるような視線に、わたくしは息が詰まりそうになった。
どちらの言い分もわかる。
大内への旧恩を忘れれば、武士としての義が立たぬ。
だが尼子の勢いを見誤れば、家は滅びる。
わたくしはどちらの道も選べずにいた。
「……皆の意見はわかった。じゃが、この件、もう少しわたくしに預からせてはくれまいか」
わたくしがか細い声でそう言うと、広間には失望のため息が漏れた。
「殿! 悠長なことを言っておられる場合では!」
三郎太が声を上げた。
「黙れ、三郎太! 殿のお考えがあるのじゃ!」
丹波守がそれを一喝する。
家臣たちの亀裂は日に日に深まっていた。
このままでは敵が攻めてくる前に、城が内から崩壊してしまう。
わたくしは無力だった。
若く経験の浅いわたくしには、この老獪な家臣たちをまとめ上げるだけの力がなかったのだ。
軍議は何の結論も出ぬまま終わった。
その夜、わたくしは一人酒を煽った。
なぜ、わたくしがこのような重責を負わねばならぬのか。
父上がご存命であれば、どうされただろうか。
答えの出ない問いが、頭の中をぐるぐると巡る。
わたくしはただ、逃げ出したかった。
城主という重圧から。
この乱世という現実から。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
大国の狭間に置かれた小領主の苦悩。それは現代の中小企業の経営者にも通じるものがあるかもしれません。
さて、苦悩の末、隆実は起死回生の一手を打とうとします。
次回、「縁組という名の鎖」。
生き残りを賭けた政略結婚の行方は。
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