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第八話 運ぶということ

 「お前の足、ついてきてないぞ」


 秋吉師範のひとことに、僕の足元が急に気になった。


 今日の稽古は“運足八法”。

 躰道における基本の足さばき。八つの移動パターンを通して、軸と重心、そして身体の流れを学ぶ稽古だ。


 


 ――運ぶというのは、歩くことじゃない。


 いま、その意味が少しだけわかってきた気がする。


 


 前へ、後ろへ、斜め前、斜め後ろ。

 足を動かしているつもりなのに、重心がぶれてしまう。腕の動きと足の運びが合わない。結果、突きの威力も出ない。


 


 「上半身と下半身がバラバラ。もっと“地面”と仲良くなれ」


 そう言われたとき、美波さんがそっと補足してくれた。


 「体ってね、“地面を蹴る”っていうより、“地面に乗る”って感じなんですよ」


 


 僕は思わず地面を見た。


 道場の床。木の板。いつもそこにあるものなのに、今日ほど“そこに立っている”ことを意識した日はなかった。


 


 もう一度、基本の「正進せいしん」――まっすぐ前へ。


 腰を落とし、前足を出し、後ろ足で軽く押し出すように。

 腕の突きと、体の軸と、足の運びが、同じリズムに乗るように。


 


 ――滑らかに、一歩。


 


 できた。ほんのわずかだけど、全身が「ひとつになった」感覚。


 運ぶとは、自分を丁寧に“進ませる”ことなのかもしれない。


 


 今までは「前に出る」ことばかり考えていた。

 でも本当は、「どうやって出るか」のほうが、ずっと大事だったんだ。


 


 その日の最後、稽古の終わりに、師範が一言。


 「八法が身につけば、戦いの中で“選べる”ようになる。選択できる人間が、強い」


 


 躰道は、前に出るだけの武道じゃない。


 どう動くかを“自分で決められる力”を育てているのだ。


 僕は、少しだけ「自分の運び方」を見つけた気がした。

こんにちは、たなかです。


第八話では「運足八法うんそくはっぽう」をテーマに書きました。

実際の稽古でもこの部分はかなり地味に見えるのですが、正直めちゃくちゃ大事です。

上半身と下半身をつなぐ動き、身体全体の流れ、そして“どこに立つか”を意識する力。


僕自身、運足八法を繰り返し練習する中で、「あ、いま動けてる」ってふと感じる瞬間がありました。あの感覚は、言葉ではうまく表現できないけれど、確かに“動きがまとまった”証でした。


次回は、そろそろ組手に近い形や、相対そうたい練習に入っていく予定です。人と向き合うこと、自分のリズムを他者と交わすこと――楽しみにしていただけたら嬉しいです。


――たなか

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