第二話 捻りという名の難敵
「動きが平面的すぎる。もっと“ひねり”を使え」
秋吉師範の指摘は、いつも端的で、痛い。たしかに、自分の動きが「面」で止まっている感覚はある。でも、じゃあ“ひねり”って、何だ?
その日、僕は鏡の前で何度も変移動を繰り返していた。右足を出して、左手を振る。体を回す。――でも、どこかが違う。
「捻るってのは、ただ腰を回すって意味じゃないですよ」
ふいに、隣で見ていた女性が声をかけてきた。
彼女は美波さん。黒帯の上級者で、動きがやたらと綺麗な人だ。年齢は僕より十歳ほど若いはずだが、道場の中ではずっと先輩だ。
「動きって、中心から外へ向かって“流れる”ものなんです。捻りはその“起点”みたいなもので……」
彼女の説明は、まるで舞台の演出家みたいだった。意味はまだ掴みきれなかったが、言葉の輪郭から何かが伝わってきた。
その後、僕は試しに、自分の中心に一本の軸が通っていると想像して動いてみた。すると、不思議なことに、少しだけ体の重心が安定したような気がした。
ああ、もしかしてこれが“捻り”の第一歩なのかもしれない。
身体の奥から、何かが動き出した。
どうも、「たなか」です。
今回は「捻り」について書いてみました。
躰道を始めたばかりのころ、僕も「ひねるって何? 腰を回すだけじゃないの?」と悩みました(笑)
実際の稽古でも、変移動や技の中で“捻り”は非常に重要な要素で、「力を伝える起点」「動きの奥行き」を生み出すものだと教わりました。
技のひとつひとつが、ただの運動ではなく、身体と心をつなぐ“問いかけ”なんですよね。
あと、今回から登場した美波さんのようなキャラも、今後少しずつ掘り下げていきたいと思います。
次回は、「跳ぶ」というテーマで、また壁にぶつかる主人公を描きます(笑)
よければ引き続き、応援お願いします!
――たなか