第十一話 次の帯へ
「無級から6級への昇級試験を受ける者は、来月に備えて準備を始めてくれ」
秋吉師範の声に、道場内が引き締まった。
僕もその一人として、胸の内に緊張と期待が入り混じるのを感じた。
昇級試験――白帯から一歩先の帯へ進むための関門。
内容は三つ。
一つ、学科試験。
一つ、法形演武。
一つ、攻防実技。
無級(白帯)から6級の試験内容は明確だ。
学科は「学科1〜10」。
躰道五条訓、技の名称、構えや礼法の意味、変移・運足の基本。
書面ではなく口頭での確認もあると聞いて、僕はノートにまとめ始めた。
法形は、「旋体の法型」。
男子は「体の法形」、女子は「陰の法形」を行う。
旋体――つまり、身体を捻り、軸を保ったまま回転して技を出す型。
簡単そうに見えて、足運びや目線のブレで全体の流れが崩れる。
「回転は勢いじゃない。軸を保ったまま、自然に動くことが大事」
そう言ってくれたのは美波さんだった。
彼女の一回転は、柔らかく、静かで、そして力強かった。
最後は、攻防実技。
「減加点交」からの「上段の攻防」。
これは型付きの相対練習で、突きと受けのやり取りを決められた動きで行う。
タイミング、間合い、運足の連携、すべてが求められる。
僕は田中くんとペアを組み、何度も反復した。
お互いに言葉を交わすより、動きの中で呼吸を合わせていく。
不安はある。でも、それ以上に“試される場”があることが、ちょっと嬉しかった。
白帯の僕が、次の帯を目指す。
それは、帯の色を変えるだけじゃない。
これまで積み重ねたものを「自分の言葉」として出す、ひとつの節目なのだ。
こんにちは、たなかです。
今回は、無級(白帯)から6級への昇級試験に向けた内容を描きました。
実際の試験では、 ・学科(学科1〜10)
・旋体の法型(男子:体の法型/女子:陰の法型)
・上段攻防(減加点交)
といった項目が課されます。
僕自身も、白帯のときに旋体で何度もふらつきながら練習しました。
ただ回るだけでなく、“自分の芯”を持ったまま動く難しさと奥深さは、今でも強く記憶に残っています。
次回は、いよいよ試験本番の描写をお届けします。
緊張、失敗、そして挑戦――ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。
――たなか