表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

第十話 形を重ねる


 「今日は基本法型を丁寧にやるぞ」


 秋吉師範の声が、道場の空気を落ち着かせた。


 基本法型一――躰道における最も基礎的な型の一つ。

 順突き、受け、運足、構え。それらが順に組み合わされた、いわば「動きの基礎文法」のような型だ。


 


 決められた動きを、順番通りに繰り返す。

 最初のころは、ただ「覚える」ことに必死だった。

 でも今は違う。


 


 動きを“なぞる”だけでは、型にはならない。


 そこに「意思」がなければ、ただの運動になってしまう。


 


 運足一法で前に出ながら順突きを打つ。

 そこに“届けたい気持ち”がないと、ただの前進だ。

 受けに回るときも、「受ける」だけじゃなく、「どう繋ぐか」が問われる。


 


 秋吉師範は言う。


 「型は動作じゃない。“意味の流れ”なんだ」


 


 何度も繰り返す。


 順突き、受け、逆突き、構え直し。

 五回、十回、十五回……ふとした瞬間、動きの中に“迷い”がなくなる感覚があった。


 


 それでも、まだぎこちない。


 美波さんの型を見る。静かで、しなやかで、強い。

 「一手一手が、会話になってる……」と思った。


 


 「型はね、“動いて伝える文章”みたいなもんです」

 彼女が以前そう言っていたのを思い出す。


 


 今日は何も喋っていない。

 でも、動きを重ねる中で、たしかに“何かを伝えようとしている自分”がいた。


 


 白帯の僕は、まだ言葉も拙い。

 でも、ようやく「伝えたい」という気持ちが、形の中に出てきた気がした。


 


 その日、鏡の前で構えた自分の姿が、少しだけまっすぐに見えた。



こんにちは、たなかです。


今回は「基本法型一」を題材に、「形を通じて何が変わるのか?」を描きました。

実際の稽古でも、ただ形を覚えるだけでは不十分で、その中に“気持ち”や“意志”があるかどうかが大切になってきます。


僕自身も、白帯のころはとにかく「覚えること」に必死でしたが、あるとき「型が動きになった瞬間」を感じてから、稽古が面白くなりました。


次回は、いよいよ昇級試験に向けて「旋体の法型」など、新しい型への挑戦が始まります。

焦り、不安、期待。すべてを抱えて、“次の帯”を目指していく主人公を描いていきます。


――たなか

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ