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第一話 白帯、締め直す

 「もっと体を捻って!」


 師範の声が飛ぶ。


 僕は足元を見て、木の床に素足を置き直した。胸の中心から螺旋を描くように――そう意識して動いたつもりが、ぐらりと身体がぶれる。鏡の中の自分が、ぎこちなく回転するだけのただのおじさんだった。


 やれやれ。これが躰道か。


 白帯。それは、すべてが「できない」ことを示す帯。


 でも今の僕には、それがありがたい。できないことが、許されている。恥をかく自由がある。


 時雨 しぐれ・よう。四十歳、小説家。専門は人間ドラマで、長年執筆を仕事にしてきた。言葉で飯を食ってきた人間が、今は体で壁にぶつかっている。


 躰道を始めたのは、ただの偶然だった。


 ある日、駅前の広場で行われていた演武会。回転、捻転、跳躍。空手とも体操とも違うその動きに、心を持っていかれた。まるで、身体で詩を読んでいるようだった。


 ――こんな風に動けたら、何か変われるかもしれない。


 そう思って、道場の門を叩いた。


 現実は、甘くなかった。自分の身体が、ここまで言うことを聞かないとは。日頃の運動不足が、ここにきて全開で牙をむいてきた。回転するどころか、平衡感覚すら怪しい。


 けれど、どこか楽しい。


 文字を書くことに疲れていた僕にとって、「動く」というのは新鮮だった。考える前に、動く。理屈ではなく、感覚が先にある。これは僕にとって、未知の言語だった。


 「体は言葉よりも正直だ」


 秋吉師範はそう言った。厳しいが、核心を突く人だ。


 稽古のあと、僕は鏡の前で白帯を見つめた。まだ何の色もついていない、それが、少し誇らしかった。


 今日も転び、失敗した。でも、前より少しだけ早く立てた。


 白帯とは、何も知らないことを恥じない勇気の証だ。


 僕は、もう一度、帯を締め直した。

どうも、作者の「たなか」です。


この作品『変移録』は、僕が実際に躰道を学んで感じたことをベースに書いています。

――といっても、フィクションです。小説家っぽく脚色も入れています(笑)


躰道という武道、初めて聞いた方も多いかもしれません。

空手にルーツを持ちつつも、捻りや跳躍、回転など独特の動きを特徴とする、非常に「動きの美しい」武道です。

僕が初めて演武を見たとき、心から「なんだこれ、かっこよすぎる!」って思いました。


でも、やってみると難しい。でも、楽しい。

年齢とか経験なんて関係なく、「動きたい」「変わりたい」って気持ちに応えてくれる場所だなと感じています。


この作品では、そんな躰道の世界を、小説家・時雨陽の目線から描いていきます。

同世代の人も、若い人も、何か新しいことを始めたいなと思っている人に届けば嬉しいです。


次回も、ぜひ読んでやってください。


――たなか

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